小泉劇場
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小泉劇場(こいずみげきじょう)とは2005年の小泉純一郎内閣総理大臣による劇場型と言われる政治のこと。
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[編集] 概説
2005年、郵政国会において小泉首相は郵政民営化法案を本国会で成立させることを公言し、法案が成立しなかった場合、解散総選挙に踏み切ることを明言した。郵政民営化法案は衆議院を通過後、参議院で審議されていたが、自民党内の反発も多く、本国会での法案成立が難しくなっていた。自民党内では衆議院を解散したら党内に遺恨を残し、選挙で自民党が民主党に負けて下野する予想があったため、法案修正案や継続審議案による解散回避論が高まっていた。しかし、小泉首相はそのような党内融和論に妥協をせずに、法案を修正せずに参議院本会議で可決させ成立させる意向を示した。8月6日、首相の出身派閥の森喜朗が小泉首相に衆議院解散をしないように説得を試みる。小泉首相は派閥の長であり前首相である森に対してもなお解散回避の説得を聞き入れなかった。この際小泉は高級チーズ・ミモレットを供し、森は小泉首相のこの歓待をネタにしてその決断を「干からびたチーズ一切れ(事実、ミモレットはかなり乾いた食感を有する)と缶ビールしか出さない『変人以上』」と評した。
8月8日、郵政民営化法案は参議院本会議で否決された。そのことを受け、小泉首相が郵政民営化に対して国民に意見を問うために解散に反対する閣僚を罷免してまで衆議院解散(郵政解散)をし、総選挙に踏み切った。解散後の首相官邸での首相演説をし、郵政民営化に対する意気込みを示した。
さらに、国会採決で郵政民営化法案に反対した自民党衆院議員に自民党として公認せず、郵政賛成派候補を擁立した。このことによって自民党は事実上の分裂選挙の様相を呈した。さらに、女性候補を自民党比例名簿上位に登載するなどして、選挙戦で女性候補を注目させる選挙戦術を取った。また料理研究家やIT会社社長などのタレント候補を多数擁立している。
上述の解散経緯によって、小泉首相へのマスメディアの注目力を上昇させた。選挙中、与党候補は一貫して郵政民営化を訴え、郵政民営化を国民的議題に乗せ、郵政民営化を問う選挙にすることに成功した。解散当時は自民党の分裂選挙で民主党が漁夫の利を得ると思われていたが、自民党の分裂選挙が大きく注目されたため、民主党の存在感が薄くなってしまった。
9月11日の総選挙で与党が圧勝し、与党だけで衆院議決することによって法案を成立できることが可能となったため、郵政法案が成立する土壌が整った。また、選挙における自民党の議席増大を受け小泉首相の影響力が強まった。この選挙で当選した自民党新人議員は小泉チルドレンと呼ばれ、小泉首相によって誕生した議員として注目された。10月14日、郵政法案は国会で可決され、成立した。
森喜朗は、「もともと国民の関心は、年金や税制の方が上で、郵政は下の方だった。でも選挙になると郵政は年金に次ぐ二番手になった。理由は賛成派も反対派も郵政のことばかり話したからだ。小泉さんも「郵政」「郵政」って余計なことをしゃべらせなかった。みんな見事にひっかかった。小泉さんによる報道管制が敷かれたようなものだよ」と評した(『産經新聞』9月13日号「森元首相、政局を語る 首相はノーサイド精神を」)。
[編集] 刺客
小泉首相は衆議院を解散した際、選挙区の有権者に郵政民営化賛成の選択肢を与えるため、郵政民営化法案に反対した自民党衆院議員に自民党として公認せず、郵政民営化賛成派候補を擁立することを表明した。
8月10日、小林興起の選挙区である東京10区に自民党公認候補として小池百合子を落下傘候補として擁立すると、亀井静香(この時点ではまだ自民党所属)が「造反するところに刺客を放って相打ちにして、民主党を当選させていいのか。」と批判した。しかし、この発言から「刺客」が逆にもてはやされ、マスメディアにも大きく取り上げられることになった。
この選挙では自民党は造反選挙区において選挙区と縁の無い落下傘候補を多数擁立していた。また、数人の女性候補を擁立し、彼女たちは女性刺客、くノ一候補とマスメディアで呼ばれた。そして、自民党は女性候補を自民党比例名簿上位に登載するなどして、選挙戦で女性候補を注目させる選挙戦術を取った。
造反選挙区における自民党候補は当初、造反議員を落とす為だけの対立候補と見なされていた。自民党比例名簿上位に登載され、復活当選がほぼ確実視されていた造反選挙区の自民党候補が存在したことも、小選挙区当選を目指しての擁立ではないとみなされる要因になった。
8月11日、自民党所属の行政改革担当相である村上誠一郎は小池百合子を「自民党の上戸彩だからな」と、映画で女刺客の「あずみ」を演じた女優にたとえた。また、8月29日の主要6党首討論では、小泉純一郎も「刺客」を使った。刺客は自民党が郵政民営化反対派に立てた候補の代名詞となった。
ところが、その前日8月28日、自由民主党は世耕弘成幹事長補佐名で、
- 自民党は自党候補を刺客と呼んだことはない
- 刺客は「暗殺者」を意味し、国政選挙候補の呼び名としてふさわしくない
- 刺客には「人殺しをする人」というイメージがあり、自民候補のイメージダウンを図る効果が生じている
と理由を挙げ、「刺客」は使わないように報道各社に申し入れた。日本のマスメディアの多くは、自民党幹部が使っていたにもかかわらずこの申し入れを受け入れた。
一方、欧米語のマスメディアでは選挙後の報道を含め、刺客に対応する語である "assassin" (暗殺者)などが使われた。
[編集] 造反選挙区一覧
以下は郵政民営化反対票を投じた自民党前議員の選挙直後の勝敗である。
選挙区 | 郵政賛成派候補 | 自民系郵政反対派 前議員 |
野党候補 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
北海道10区 | 自民 | 飯島夕雁※1 | △ | × | 山下貴史 | 党籍 | 小平忠正 | 民主 | ○ |
青森4区 | 自民 | 木村太郎 | ○ | × | 津島恭一 | 国民 | 渋谷修 | 民主 | × |
秋田2区 | 自民 | 小野貴樹 | × | ○ | 野呂田芳成 | 党籍 | 佐々木重人 | 民主 | × |
埼玉11区 | 自民 | 新井悦二 | ○ | × | 小泉龍司 | 党籍 | 八木昭次 | 民主 | × |
東京10区 | 自民 | 小池百合子 | ○ | × | 小林興起 | 日本 | 鮫島宗明 | 民主 | × |
東京12区 | 公明 | 太田昭宏 | ○ | × | 八代英太 | 離党 | 藤田幸久 | 民主 | × |
富山3区 | 自民 | 萩山教厳 | △ | ○ | 綿貫民輔 | 国民 | 向井英二 | 民主 | × |
福井1区 | 自民 | 稲田朋美※1 | ○ | × | 松宮勲 | 党籍 | 笹木竜三 | 民主 | △ |
山梨2区 | 自民 | 長崎幸太郎 | △ | ○ | 堀内光雄 | 党籍 | 坂口岳洋 | 民主 | × |
山梨3区 | 自民 | 小野次郎 | △ | ○ | 保坂武 | 党籍 | 後藤斎 | 民主 | △ |
岐阜1区 | 自民 | 佐藤ゆかり※1 | △ | ○ | 野田聖子 | 党籍 | 柴橋正直 | 民主 | × |
岐阜4区 | 自民 | 金子一義 | ○ | × | 藤井孝男 | 党籍 | 熊谷正慶 | 民主 | × |
岐阜5区 | 自民 | 和仁隆明 | × | ○ | 古屋圭司 | 党籍 | 阿知波吉信 | 民主 | × |
愛知7区 | 自民 | 鈴木淳司 | ○ | 辞 | 青山丘※2 | 日本 | 小林憲司 | 民主 | × |
静岡7区 | 自民 | 片山さつき※1 | ○ | × | 城内実 | 党籍 | 阿部卓也 | 民主 | × |
滋賀2区 | 自民 | 藤井勇治 | △ | × | 小西理 | 離党 | 田島一成 | 民主 | ○ |
京都4区 | 自民 | 中川泰宏 | ○ | × | 田中英夫 | 党籍 | 北神圭朗 | 民主 | △ |
大阪2区 | 自民 | 川条志嘉 | ○ | × | 左藤章 | 党籍 | 萩原仁 | 民主 | × |
奈良1区 | 自民 | 鍵田忠兵衛 | △ | × | 森岡正宏 | 党籍 | 馬淵澄夫 | 民主 | ○ |
奈良2区 | 自民 | 高市早苗※1 | ○ | △ | 滝実 | 日本 | 中村哲治 | 民主 | × |
鳥取2区 | 自民 | 赤沢亮正 | ○ | × | 川上義博 | 党籍 | 山内功 | 民主 | × |
島根2区 | 自民 | 竹下亘 | ○ | △ | 亀井久興 | 国民 | 小室寿明 | 民主 | × |
岡山2区 | 自民 | 萩原誠司 | △ | 辞 | 熊代昭彦 | 党籍 | 津村啓介 | 民主 | ○ |
岡山3区 | 自民 | 阿部俊子※1 | △ | ○ | 平沼赳夫 | 党籍 | 中村徹夫 | 民主 | × |
広島6区 | 無所属 | 堀江貴文 | × | ○ | 亀井静香 | 国民 | 佐藤公治 | 民主 | × |
徳島2区 | 自民 | 七条明※1 | △ | ○ | 山口俊一 | 党籍 | 高井美穂 | 民主 | × |
福岡10区 | 自民 | 西川京子※1 | ○ | × | 自見庄三郎 | 党籍 | 城井崇 | 民主 | × |
福岡11区 | 自民 | 山本幸三 | △ | ○ | 武田良太 | 党籍 | 稲富修二 | 民主 | × |
佐賀2区 | 自民 | 土開千昭 | × | ○ | 今村雅弘 | 党籍 | 大串博志 | 民主 | △ |
佐賀3区 | 自民 | 広津素子※1 | △ | ○ | 保利耕輔 | 党籍 | 柳瀬映二※3 | 社民 | × |
大分1区 | 自民 | 佐藤錬 | △ | × | 衛藤晟一 | 党籍 | 吉良州司 | 民主 | ○ |
宮崎2区 | 自民 | 上杉光弘 | × | ○ | 江藤拓 | 党籍 | 黒木健司 | 民主 | × |
宮崎3区 | 自民 | 持永哲志 | × | ○ | 古川禎久 | 党籍 | 外山斎 | 民主 | × |
鹿児島3区 | 自民 | 宮路和明 | ○ | × | 松下忠洋 | 党籍 | 野間健 | 民主 | × |
鹿児島5区 | 自民 | 米正剛 | × | ○ | 森山裕 | 党籍 | 柴立俊明※3 | 共産 | × |
○…小選挙区当選 △…比例復活当選 ×…落選 辞…小選挙区での立候補辞退
自民…自由民主党 公明…公明党 国民…国民新党 日本…新党日本
党籍…自民党籍維持の無所属 離党…自民党を離党した無所属
民主…民主党 社民…社会民主党 共産…日本共産党
※1 自民党比例名簿上位候補(大勢の重複候補より名簿順位が上位の候補)
※2 青山丘は小選挙区での立候補を辞退し、比例単独で立候補をするも落選
※3 民主党候補が立候補しなかったため、次に獲得票が多かった野党候補を記載
※4 自民系郵政反対派前議員村井仁の選挙区である長野2区に関しては、郵政賛成派候補擁立前に村井が立候補辞退を表明したため、不記載
結果 郵政賛成派 15勝 郵政反対派 15勝 民主党 5勝
[編集] その他の選挙戦術
- 「自民党をぶっ壊す」と語り、自民党内の抵抗勢力との対決姿勢を演出し、世論の人気を背景に選挙で大勝した2001年の参院選の「小泉ブーム」を再現しようと考えた。
- 「官か?民か?」という単純でわかりやすい選択を国民に求めることにより、「公的年金流用問題」、「大阪市の厚遇問題」などで高まった「官」に対する国民の不信感なども背景に、郵政民営化賛成の世論をつくった。
- 郵政民営化法案に反対した自民党議員の中には、「郵政民営化には賛成であるが、議論が尽くされておらず、国民の理解が得られないと判断し、継続審議が必要だ」「郵政民営化は、年次改革要望書に基づくアメリカ主導の政策」と主張し、反対した議員も存在した。しかし、小泉首相のメディアにおける発言が大きく注目されたことにより、「反対派はすべて郵政族であり、郵政民営化を頭ごなしに反対する勢力」という小泉首相の意見を国民に印象づけるようとした。
- 小泉首相は、政治家を志してから一貫して福田赳夫を師と仰いでいた。そのため、角福戦争を繰り広げ、福田赳夫元首相の政敵であった田中角栄元首相の流れをくむ旧橋本派を一掃しようという狙いもあったとされる。
- 1995年の橋本龍太郎元首相と対決した自民党総裁選では、「郵政三事業が役人でなければできないというのは官尊民卑の典型だ」、「党が特定の一派支配になっていいのか」と郵政族の多い旧橋本派を痛烈に批判した過去があり、郵政民営化に対する情熱は人一倍であった。
[編集] 用語
当初、小泉劇場は反小泉陣営から小泉首相の政治手法を批判する際に、使われた言葉であった。しかし、後に小泉支持者からも小泉首相の政治手法を肯定する意味で使われていった。
2005年の新語・流行語大賞に「小泉劇場」が選ばれ、武部勤自民党幹事長が受賞者を務めた。関連として「刺客」も流行語に選ばれている。