沖縄都市モノレール線
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沖縄都市モノレール線(おきなわとしモノレールせん)は、沖縄県那覇市の那覇空港駅と首里駅とを結ぶ沖縄都市モノレールが運行するモノレールである。全線が軌道法による軌道として建設されている。
「ゆいレール」という愛称で呼ばれている。「ゆいレール」の「ゆい」は、沖縄の言葉の「ゆいまーる」(「雇い回り」を語源とする、村落共同労働を意味する言葉)の「ゆい」からとられたものである。

目次 |
[編集] 路線データ
- 路線距離(営業キロ):12.9km
- 方式:跨座式モノレール(日本跨座式)
- 駅数:15駅(起終点駅含む)
- 複線区間:全線
- 電気方式:直流1500V
- 閉塞方式:車内信号式(ATC)
- 車両基地所在駅:那覇空港駅(那覇空港駅~赤嶺駅間)
[編集] 概要
沖縄県の交通手段は自家用車・タクシー・バスが中心であり、特に那覇都市圏では渋滞が悪化している。そこで、国、沖縄県、那覇市と沖縄都市モノレール株式会社が一体となって建設を行い、沖縄では戦後初の鉄道開通となった。開業当初には、慣れない切符の購入や自動改札機の通り方に一時戸惑う客もいた。現在でも沖縄都市モノレール線のウェブサイトに掲載されている「利用ガイド」には、切符を買ってからホームに上がって乗車に至るまでの過程が丁寧に説明されている。
ストアードフェアシステムとしてはゆいカードがある。その他には1日、2日、3日乗車券もあり、これらを提示すると割引を受けられる観光施設がある(首里城正殿、玉陵など。割引を受けられる施設の一覧は駅構内や車内にて掲示されている)。
[編集] 運行形態
全列車各駅停車。運行間隔は、朝ラッシュ時・深夜を除き、10~16時台が10分間隔、17~18時台が8分間隔(若干の変動あり)。ワンマン運転を実施している。
全列車が全区間を運行するため折り返しは両端の駅のみで行われるが、牧志駅~安里駅間に非常用の渡り線があり両駅での折り返し運転も可能となっているが、その区間での折り返し運行は実施されたことはなく、運行に支障が出た場合は全線で運行停止になることが多い。
車両については会社記事の車両項を参照。
[編集] 歴史
沖縄本島では大正時代に軽便鉄道や路面電車、馬車鉄道が開業したが、昭和初期には沖縄電気の路面電車と糸満馬車軌道がバスとの競争に敗れて廃止され、残った沖縄県営鉄道と沖縄軌道も大東亜戦争(太平洋戦争)末期に運行を停止し、鉄道の施設は空襲や地上戦によって破壊された。アメリカ軍の統治下に置かれた戦後は道路整備が優先されたため、鉄道は復旧されることなくそのまま消滅した。
しかし、1970年代に入って経済活動が活発になってくると、那覇市を含む沖縄本島中南部地域に人口や産業が集中。この結果、道路交通の渋滞が慢性化し、その対策として新たな軌道系公共交通機関を求める声が高まっていった。
沖縄が本土復帰を果たした1972年、国は沖縄の振興開発を推進するため「新全国総合開発計画」(新全総)の一部を改正し、沖縄県に対する特別措置として沖縄振興開発計画を策定した。これを受けて、国や沖縄開発庁、沖縄県、那覇市などが中心となって導入機種やルートなど具体的な検討を行い、最終的には「都市モノレールの整備の促進に関する法律」(都市モノレール法)に基づき跨座式モノレールを導入することで決着した。ルートは那覇空港から首里城に近い汀良(てら)地区までの区間を第一期区間とし、汀良地区から西原入口までの区間を第二期区間、さらに沖縄市方面への延伸も検討課題とした。
1982年9月に運営主体となる第三セクター「沖縄都市モノレール株式会社」が設立され、同社は軌道法に基づき軌道事業の特許を申請したが、国は採算面に不安な要素があることや、既存バス会社との調整が進んでいないことなどを理由に特許を保留した。このため、沖縄県と那覇市は都市モノレールの導入空間となる街路の整備事業を先行して進めた。
1994年に沖縄県、那覇市、バス会社との間で基本協定や覚書が締結されると、着工に向けての動きが活発化し、沖縄都市モノレールは1995年12月に空港(現在の那覇空港)~汀良(現在の首里)間の特許申請書を再提出。翌1996年3月に軌道事業が特許され、同年11月に軌道本体の工事に着手した。この時点での開業予定時期は2003年12月としていたが、街路の先行整備で工期に余裕ができたこともあり、実際には4ヶ月ほど早い2003年8月に開業している。
- 2003年(平成15年)8月10日 那覇空港~首里間が開業。昼間12分間隔。1日上下202本運転。
- 2004年(平成16年)12月26日 開業後初のダイヤ改正。運転間隔を昼間10分間隔とし26本増発。
- 2005年(平成17年)4月1日 1日乗車券などのフリー乗車券が値下げ。
- 2005年(平成17年)12月23日 開業以来、平日・休日 ※ともに共通だったダイヤが変更され、休日ダイヤ新設。
※ここでいう休日とは、土曜日、日曜日、祝日、年末年始(12月31日~1月3日)である。
[編集] 延伸計画
首里駅から石嶺地区を経由した延伸の予定があり、そのため首里駅から先の車止めは石嶺地区に向かってカーブした形で行き止まりとなっている。また、首里駅のホームは相対式となっており、上り線を利用して暫定的に片面のみ使用している。また、延伸予定道路は軌道敷設対応の拡張工事が行われている。内閣府では2005年(平成17年)に延伸についての調査を行った。ゆいレールの利用実績は順調であるものの赤字を出しており、この解消が課題となった。
石嶺から国道58号や沖縄自動車道沿いに北上し、浦添市や沖縄市など周辺各都市をつなぐ都市間モノレールに成長させる構想や、赤嶺から糸満方向に延伸する構想もあるが、採算性などが課題である。なお、モノレールは全て高架であり、乗降が案外不便であるため、都市圏ではライトレール(LRT)を、都市間では本格的な鉄道(例:那覇~名護間)の建設を求める運動もあり、調整が必要である。また、自動車道のインターチェンジ(西原IC)まで延伸し、駅にパーク・アンド・ライド用駐車場を設置、高速道路を利用して車とモノレールを連結した統合高速交通構想もある。この場合、北部延伸は「自ずと無くなる」(内閣府)といわれるが、交通弱者もいることを考慮するとこの構想を実現することは難しい。
[編集] 公共交通の再編
沖縄都市モノレールの開業に前後して、既存路線バスの抜本的見直しが行われた。沖縄県内の公共交通(路線バス、タクシー)は、全国的に見ると交通弱者にとって比較的恵まれた利便性が提供されて来たと言えるが、これを機に那覇市内路線や都市間路線を中心に運行形態の抜本的見直しが行われ、地域便の廃止・減便や、那覇市内路線の整理・増便、高速バス拡充が進んだ。主な動きは以下のとおり。
- 那覇~沖縄市(コザ)~名護を結ぶ路線の大幅整理
- 那覇~名護を結ぶ地域路線便の大幅削減
- 那覇~コザ~名護便の系統整理と直通便の削減
- 那覇~恩納~名護便の大幅削減
- 那覇~コザ・名護を沖縄自動車道経由で結ぶ高速バスの増便
- 那覇~コザ~屋慶名便の新設
- 那覇~名護便の大幅増便
- 那覇市内路線・近隣市町村方面の路線整理・大幅増便
- 末吉線(那覇交通:具志営業所~牧志~古島~首里)の廃止
- 石嶺空港線(那覇交通:石嶺営業所~首里~牧志~空港)の廃止
- 知花線(那覇交通:那覇空港・那覇BT~牧志~大山・山川~普天間~コザ~知花)の廃止
- 糸満西原線(那覇交通:西原営業所~首里・古島~牧志~開南~豊見城~糸満営業所)の大幅減便
- 那覇バス(旧那覇交通=銀バス)三重城営業所の新川移転に伴う路線整理・増便
- 首里城下町線(沖縄バス:石嶺団地~首里駅~守礼門~沖縄都ホテル~ホテル日航那覇グランドキャッスル)の新設
- おもろまち交通(駅前)広場の開設・那覇BT始発終着便の一部移転
- 那覇おもろまち線(那覇バス:那覇BT~国場~松川~大道~おもろまち交通広場)の新設
- 新都心循環線(那覇バス:おもろまち交通広場~おもろまち循環)の新設
- 天久新都心線(琉球バス交通:具志~那覇空港~久茂地~新都心~パイプライン~牧港~コンベンションセンター)の新設(当初は那覇空港~牧港の区間のみ)
- 琉球バス交通(旧琉球バス)与根営業所開設による那覇空港・那覇BT始発終着便の小禄・赤嶺方面への一部路線延長
[編集] 駅一覧
駅名 | 駅間キロ | 営業キロ | 周辺・備考 |
---|---|---|---|
那覇空港駅 | - | 0.00 | 那覇空港、日本最西端の駅及び日本最南端の終着駅、ゆいレール資料館 |
赤嶺駅 | 1.95 | 1.95 | 日本最南端の駅、糸満方面へのバス発着駅 |
小禄駅 | 0.76 | 2.71 | ジャスコ那覇店直結 |
奥武山公園駅 | 0.97 | 3.68 | 沖縄県営奥武山公園南側、旧海軍壕方面へのバス発着駅 |
壺川駅 | 0.84 | 4.52 | 沖縄県営奥武山公園東側、那覇中央郵便局、ハーバービューホテル南側 |
旭橋駅 | 0.81 | 5.33 | 沖縄県立郷土劇場・那覇バスターミナル・那覇港那覇ふ頭 |
県庁前駅 | 0.58 | 5.91 | 沖縄県庁・那覇市役所前・パレットくもじ(リウボウ)・国際通り |
美栄橋駅 | 0.72 | 6.63 | 那覇港泊ふ頭(とまりん)・国際通り・牧志公設市場 |
牧志駅 | 0.98 | 7.61 | 国際通り・平和通り・桜坂最寄り駅 |
安里駅 | 0.59 | 8.20 | 壺屋焼物博物館最寄り駅 |
おもろまち駅 | 0.75 | 8.95 | DFSギャラリア沖縄(国内初の大型免税店)、サンエー那覇メインプレイス、ハローワーク那覇最寄り駅 |
古島駅 | 1.01 | 9.96 | 興南高校最寄り駅、沖縄国際大学、沖縄コンベンションセンター、宜野湾・沖縄・うるま各市方面へのバス発着駅(沖縄コンベンションセンターへの路線バスの本数は那覇バスターミナルのほうが多い) |
市立病院前駅 | 0.92 | 10.88 | 那覇市立病院へ直結、末吉公園最寄り駅 |
儀保駅 | 0.96 | 11.84 | 首里城公園最寄り駅(連絡なし)、琉球大学方面へのバス発着駅 |
首里駅 | 1.00 | 12.84 | 首里城公園最寄り駅(100円バスで連絡)、ホテル日航那覇・沖縄都ホテル方面へのバス発着駅 |
[編集] 接続路線
なし
[編集] その他
- バリアフリー対策として全駅にエスカレータ(上り)、エレベータ、車椅子乗降装置「ラクープ」、車椅子用トイレが設置されている。沖縄のバスはバリアフリー対策が遅れているため、ゆいレールで車いすでの利用客を目にすることが多い。
- 全線で列車運行管理システムを導入。
- 那覇空港駅・県庁前駅・首里駅には、オストメイト対応トイレが設置されている。
- 全駅にホームドアが設置されている。ただし障壁は下半分のみで、ホームは密閉式でないため風雨が強いと雨がホームに吹き込む欠点がある。車輌ドアが1両あたり2扉(片側)のため、各ホームに設置されているドアは4扉ずつ。
- 那覇空港駅と首里駅では、沖縄民謡をアレンジした発車メロディが流れる。
- 各駅到着前には沖縄民謡をアレンジした車内チャイムが流れる。
- 当線の開業により、全国の都道府県で電車なるものが存在しない(= 電化された鉄道路線がない)のは徳島県のみとなった。
- 尚、2005年1月には首里駅で首里城循環100円バス(首里コミュニティバス)に乗り継ぐ場合、バスの運賃を50円に割り引く制度が試験的に実施された。
- 車内アナウンスは、日本語・英語共に沖縄県のナレーター富原志乃によるものである。
- 那覇空港駅近くの沖縄都市モノレール本社敷地内に「ゆいレール展示館」があり、ゆいレールや戦前の“ケービン”(沖縄県営鉄道)などの豊富な資料を無料で見学することが出来る。
- 自動券売機にて、羽田空港からの京浜急行電鉄または東京モノレール乗り換え乗車券を購入できる。(但しこの逆は出来ない)
- 太平洋戦争の激戦地であったことから建設前に不発弾探査が行われ、3ヶ所において計7発の不発弾が発見され処理された。
- 古島駅から約57パーミルの上り坂が続く。最急勾配は儀保駅-首里駅間の60パーミル。
- ちゅらさん(パート4)の前編にて遠巻きではあるが、走行している所が確認出来る。
[編集] 関連項目
[編集] 参考文献
- 沖縄県土木建築部、沖縄都市モノレール株式会社編 『沖縄都市モノレール建設記録誌』 2004年。
[編集] 外部リンク
- 沖縄都市モノレール(ゆいレール) - 各駅の施設や構造の図示、時刻表、料金などについてのQ&A集、などがある。
- 沖縄本島の公共交通 - ゆいレールと、琉球バスなど、本島内のバスの路線図が紹介されている。
- 都市交通専門家のページ - ゆいレールのレポート。