TBSビデオ問題
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TBSビデオ問題(ティービーエスビデオもんだい)とは、1989年10月26日に、東京放送(TBS)のワイドショー番組「3時にあいましょう」のスタッフが、坂本堤弁護士のオウム真理教問題について批判のインタビュー映像を放送直前にオウム真理教幹部に見せたことが、9日後の11月4日に起きた坂本堤弁護士一家殺害事件の発端となったとされる事件である。オウムビデオ事件、単にTBS問題・TBS事件ともいう。
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[編集] 経過
1989年秋にオウム真理教富士山道場で社会情報部(事件後廃止、「3時にあいましょう」スタッフ)と社会部合同で麻原彰晃(松本智津夫)による「水中クンバカ」の実演を取材。赤旗記者も同席していた。3時にあいましょうではこれを放送し、後日、オウム真理教批判の急先鋒であった坂本堤弁護士を取材し、インタビューを録画。
- 1989年10月26日:オウム真理教の早川紀代秀、上祐史浩、青山吉伸らがTBS(当時の千代田分室)を訪れ、3時にあいましょうスタッフに対し、坂本弁護士へのインタビュー取材を抗議。ここで、(3時にあいましょう)曜日担当プロデューサーが、インタビューを収録した当該ビデオを3人に見せている。結局、オウム側の抗議にTBSスタッフはインタビューを放送しないことを承諾・約束し、オウム側幹部はその場を後にする。
- 1989年10月31日:早川、上祐、青山ら3人が横浜法律事務所を訪れ、坂本弁護士と交渉、しかし交渉は決裂。
- 1989年11月4日:坂本弁護士一家殺害事件が発生。
- 1995年10月12日:TBSが、東京地検へ坂本弁護士のインタビューテープを提出。
- 1995年10月19日:日本テレビが、TBSが放映前の坂本弁護士のインタビュービデオをオウム幹部に見せたと報道。同日、TBSは夕方のニュース番組「ニュースの森」内で否定の報道を行う。
- 1996年3月11日:TBSは坂本弁護士のインタビュービデオを見せた事実は無かったという「社内調査概要」を発表。
- 1996年3月12日:早川被告公判。TBSのプロデューサー、及び早川の供述調書の要旨告知(事件の核心となる早川メモが公表される)。横浜法律事務所、TBSに対して公開質問状。
- 1996年3月19日:TBSは、横浜法律事務所の公開質問状に対する回答書提出。坂本弁護士のインタビュービデオを見せた事実はでなかったと回答。TBSの大川常務、衆議院法務委員会に参考人招致。社内調査概要に従って発言。
- 1996年3月25日:TBSの磯崎洋三社長、坂本弁護士のインタビュービデオを、オウムの早川たちに見せたことを認める内容の記者会見を行う。
- 1996年3月28日:TBSの大川前常務、衆議院法務委員会で陳謝。
- 1996年4月2日:TBSの磯崎社長ら、衆議院逓信委員会に参考人招致。
- 1996年4月3日:TBSの磯崎社長ら、衆議院逓信委員会に参考人招致。
- 1996年4月30日:TBSは坂本弁護士のインタビューテープ問題についての社内調査概要など発表、19時00分から19時20分まで磯崎社長による社告謝罪番組「視聴者の皆様へ」、19時20分から23時00分まで検証特番「証言」を放映。ビデオをオウム幹部に見せた曜日担当プロデューサーは懲戒解雇。
- 1996年5月20日:TBSは、23時50分から5分間の特別番組「視聴者の皆様へ」で砂原幸雄社長より経過報告と今後の対策および謝罪放送をした。
- 1996年5月24日:TBSは横浜法律事務所に公開質問状に対する再回答書提出。3月19日の回答書を全面的に撤回し、坂本インタビュービデオを見せたことを認めるとともに、遺族と横浜法律事務所などに陳謝。
- 1996年12月18日:TBS「放送のこれからを考える会」(座長:堀田力弁護士)が、報道現場における「個の確立」を求める提言。
[編集] メディア界への影響とTBSへの批判の過熱
ジャーナリズムの原則である情報源の守秘義務を大きく逸脱することは、報道倫理を大きく逸脱するものとして他局、新聞、週刊誌はTBSを痛烈に批判した。問題発覚後は、TBSの内部調査が不透明で保守的であったことも影響し、批判は日増しに激しくなっていった。また、一部の報道には、前述の「取材源の秘匿を守らなかった」という「報道倫理」という観点での批判ではなく、「TBSがビデオをオウム幹部に見せたことで坂本弁護士が殺害された」という批判が多数を占めることになった。このため、そういった報道の中には「殺人放送局」や「オウムの手下」という扇情的な文句も出始め、世論もTBSを批判する論調が多数となった。
しかし、上記の扇情的な「バッシング」報道には多くの識者とジャーナリストが、「坂本弁護士殺害の因果をTBSだけに負わせることは問題の本質を無視するものだ」と異論を唱えた。
また、これらの批判報道によって、坂本堤弁護士一家殺害事件を含むオウム真理教に関連する一連の事件(松本サリン事件・地下鉄サリン事件など)そのものの真実究明がおろそかになったとも批判がある。
[編集] その後のTBS
この問題でTBSは社会的非難を浴び、当時放送中であった「モーニングEye」「スーパーワイド」を打ち切り、社会情報部、ワイドショーを廃止した。その後もワイドショー的な番組は放送せず、芸能ニュースや流行についてのニュースが中心の情報番組を放送。
また、この不祥事による自粛措置として5月20日から24日までの5日間テレビの深夜放送を取りやめた他、この期間はNEWS23の放送を第1部までに短縮した。ラジオの深夜放送は通常通り行われた。
尚、ワイドショーの廃止に伴い、1996年9月30日から「はなまるマーケット」を開始した。しかし、2004年3月5日に放送した報道特別番組「告白~私がサリンを撒きました~オウム10年目の真実」において、過度の演出があった。それにより教訓は失なわれたとしてマスコミが批判された。また、2005年3月28日から、平日10:50から正午のニュース番組を吸収して「きょう発プラス!」の放送を開始(「きょう発プラス!」は2006年9月29日に発展的な終了を迎え同年10月2日より「ピンポン!」が開始)。これをもって昼の報道ワイドショーが復活した。一部マスコミで非難されたが、そういった報道は自然に消滅していった。
だが2003年頃から報道番組での放送事故が多くなり、訴訟にまで発展した石原慎太郎の発言誤訳や米国下院議員の発言誤訳など多数の誤訳報道や、旧731部隊の報道特集時の背景に731部隊と直接は無関係な安倍晋三の写真を入れたまま放送し総務省から行政指導を受けるなど、意図的とも取られても仕方ない報道が頻発したために公正な報道をしていないと疑問を持つ者も少なくない。また『ぴーかんバディ!』でも2006年5月6日に放送した白インゲン豆ダイエットを取り扱ったが、そこで不完全な調理のまま食べると体調を崩しかねないという注意を怠ったため、多数の視聴者が体調を崩し入院したため厚生労働省から厳重注意を受けるなど、「TBSビデオ問題の時と社内体制が変わっていないのではないか」という批判もある。なお、ぴーかんバディ!はその後打ち切られた。後番組は『人間!これでいいのだ』になるも、この番組でも「聞くと頭の良くなる音」の企画が捏造だったことが発覚し、2007年2月で打ち切りになった(『 - これでいいのだ』は捏造発覚直前から打ち切りが決まっていた)。
[編集] 日テレとの関係悪化
この事件を報道した日本テレビとは事件の前後しばらくの間、双方の局が相手に番組資料映像を貸さないなど、険悪な関係となった。下記はその主な事例。
- 俳優のフランキー堺が亡くなって間もなく、日テレの『知ってるつもり?!』で彼をとりあげた際、主演作『私は貝になりたい』のワンシーンが流れたが、1958年にTBS(当時はラジオ東京<KRT>)で放映のドラマではなく、翌59年に劇場公開された橋本忍監督、東宝配給の映画版だった。
- 加藤茶がゲスト出演した日テレの2時間特番で、ドリフ全盛期のいかりや長介のエピソードの前置きにドリフ出演番組のVTRが流れたが、TBSの『8時だョ!全員集合』ではなく、同番組休止期間中の1971年4月から半年間日テレで放送された『日曜日だョ!ドリフターズ!!』のVTRだったため、加藤のギャグにやや精彩を欠いた内容だった。
- 高校サッカー中継は、日テレ系フルネット局が開局した地域でも、1994年度までは一部のJNN系列局が参加していたが、日テレが事件を報道した直後の95年度の大会から日テレ報道に対する報復の意味も含め次第にJNN系列局が制作参加局から離れ、現在の参加局は宮崎放送のみとなった。宮崎放送が引き続き参加しているのは、NNNに加盟しているテレビ宮崎(フジテレビ系メインネット・ANNにも加盟しているがNNSには非加盟)がスポーツ中継(特に野球・サッカー)のノウハウが高くない事が影響しているためといわれる。日テレ系の準キー局・読売テレビ放送が制作して西日本のほぼ全域と東日本の一部の日テレ系列局にネットされている討論バラエティ番組「たかじんのそこまで言って委員会」は2007年4月から宮崎放送でもネットされる(日テレはネット無し)。
なお現在は、以下に挙げる点などから両局の関係は一時期より修復されているように思われる。
- 「サンデージャポン」で「ラジかるッ」を頻繁に取り上げ、時にはサンジャポ取材班が日本テレビのゼロスタジオまで赴き「ラジかるッ」オンエア前後にVTR取材も行っっている(「ラジかるッ」でも「サンデージャポン」について頻繁に取り上げている)。
- 日テレの人気番組「進め!電波少年」などを手掛けた土屋敏男元プロデューサーが「サンデージャポン」にゲスト出演している。
- 2007年3月20日の日テレ「ザ・ワイド」の船越英二追悼のコーナーで、TBSの「時間ですよ」の映像が引用された。
- 2007年3月30日にはプロ野球開幕に合わせて日本テレビと共同企画(「みのもんたの朝ズバッ!」と「午後は○○おもいッきりテレビ」に両局のアナウンサーが相互出演)を行っている。
[編集] 関連項目
- 3時にあいましょう
- モーニングEye
- スーパーワイド
- 坂本堤弁護士一家殺害事件
- オウム真理教
- TBSビデオテープ押収事件
[編集] 外部リンク
オウム真理教 | |
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主な事件 : | 坂本堤弁護士一家殺害事件 | 松本サリン事件 | 目黒公証人役場事務長拉致監禁致死事件 | 地下鉄サリン事件 | シガチョフ事件 | TBSビデオ問題 |
関連項目 | |
団体 : | オウム真理教 | アーレフ | 真理党 | ケロヨンクラブ | 上祐派 |
施設 : | サティアン | マハーポーシャ | うまかろう安かろう亭 |
その他 : | 尊師マーチ | オウム真理教放送 | 教団の音楽 | 教団のアニメ | アンダーグラウンド |