共同運行
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共同運行(きょうどううんこう)とは、路線バスの運行形態の一つである。
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[編集] 運行形態
同じ系統・路線を運行している複数のバス会社が、他社との無益な競合を避けるためにダイヤや運賃収入体系などを調整の上運行する形態。その形態により、相互乗り入れや競合運行とも称される。
なお、同一か類似した系統で、全く各社間調整をしないで運行している場合(高速バスに多い)は、例えば2路線なら「ダブルトラック」などのように呼ばれ、共同運行としては扱われない。この場合、時間帯なども重なっている場合が多い。
[編集] 類型
以下のようなパターンに大別される。
競合運行
同一の区間を運行しており、何らかの調整がされているが、ダイヤ・時刻の統一はなく、各社でバラバラに運行される。また、乗車券も共通ではなく、運賃精算も各社間では行われていないことが多い。系統番号については統一することもある。バス停留所に掲出されている時刻表が各社別になっている場合は、このパターンであることが多い。
相互乗り入れ
一般路線バスにおいて共同運行と称される場合、通常はこの方式である。
同一の区間を運行する各社間で、ダイヤ・時刻・運行便数などの調整が行われる。共管路線とも称される。系統番号については統一されないこともある。運賃精算は基本的には行われないが、共通定期・回数券を設定の上、現金での利用分以外については運賃精算が行われるケースもある。近年では地域ごとに共通回数券や共通乗車カードが設定されていることが多いので、路線個別の精算は共通定期券以外は行っていないこともある。観光地を走る国鉄バス路線などでよく行われていた手法で、JRバスになっても続けられている路線が存在する。バス停留所に掲出されている時刻表が会社に関わらず1つにまとめられている場合は、このパターンであると考えてよい。
中央高速バス甲府線の開設当初は3社相互乗り入れ方式であった(現在は後述の「運賃プール精算制」)が、時間帯による運賃収入の格差を解消するため、ダイヤ改正がなくても毎年担当便を変更する方法で調整していた。
また、各社で収入・支出は割り勘となることもある。例えば琉球バス交通と沖縄バスが共同運行している28番(読谷線)に乗車し、運賃を200円支払った場合、半分の100円は琉球バス交通の収入になり、残りの100円は沖縄バスの収入になる。この方式は後述の「運賃プール精算制」に近いが、各社ごとの運行キロ数によらない方法なので、こちらに分類される。
後述の「運賃プール精算制」に対して、こちらの方式を「着札精算制」と呼ぶこともある。
運賃プール精算制
高速バスで共同運行といえば、この方式をさすことが多い。
同一の区間を運行する各社間の中で1社が幹事役となり、その路線に関わる全ての収入を一旦取りまとめた後、運行便数・走行キロ数に応じて各社に配分する方法。例えば、片道40kmの路線があったとして、A社が1往復全区間運行し、B社は復路を途中30kmで運行終了した場合、A社の走行キロは80kmであるが、B社は70kmしか運行していないため、A社には全収入の53.3%が配分され、残りがB社の取り分となる。この場合の各便の乗車率は考慮されないため、例えばA社便の乗客がゼロで、B社便で乗客が合計100人いたとしても、A社には収入が配分される。A社便の乗客を増やすためにB社が利用促進の活動を行ない、その結果A社便の乗客が増加した場合、増加した分の収入はB社にも配分される。このように、便ごとの乗客の多寡に各社ごとの収入が左右されないことから、多くの高速バスで導入されている方法である。
1983年に西日本鉄道・阪急バスの共同運行により運行を開始した夜行高速バス「ムーンライト号」で採用されたのが最初とされている。多くの事業者が関わるものでは1984年運行開始の中央高速バス伊那・飯田線の6社プール精算などが挙げられる。
また、類似内容の高速バス路線の運行について、共倒れを防ぐために違う路線の間でもこの方法が採られるケースもあり、運行開始当初の「ルブラン号」「ルミナス号」「マスカット号」(いずれも東京~岡山・倉敷間を結ぶ路線)では、3路線6社でのプール精算となっていた。
この方法の場合、路線ごとの収入を明確にするため、回数券などは当該路線専用の共通回数券が用意されることが多い。
なお、異なる会社の共同運行ではないが、JRバス関東では、複数の支店が運行に関わる場合に、支店間で同様の方法による精算を行っている。例えば「かしま号」の場合、まず運行会社のJRバス関東・関東鉄道・京成バスで配分された後、JRバス関東の収入については東京支店・八日市場支店・土浦支店で運行便数に応じて再配分される。これは、JRバス関東では支店ごとの独立採算制を重視しており、それぞれの支店が担当する高速バスの収入は、担当支店の収入となるからである。
[編集] 高速バスにおける共同運行について
高速バスの場合、予約定員制か座席指定制となることから、極力座席配置などの仕様は統一するケースが多く、特に夜行高速バスではその傾向が強い。
「ムーンライト号」では車両のカラーリングも含めて全く同一の車両を使用していた他、「ノクターン号」では各社ともに1号車用と2号車用のカラーリングが用意されたり、運行開始当初の「らくちん号」のように、4社が車種まで揃えたケースが挙げられる。しかし、高速バスブームなどで共同運行の組み合わせが増えるに従い、それぞれの標準的な仕様が異なってくるケースも増加した。基本的には座席定員のみ合わせているケースが多く、1~2席程度の違いであれば、予備席として吸収させてしまうケースもある。
近年はコスト削減の観点から、同一事業者の車両については仕様統一される傾向にあるが、共同運行の事業者によって車種や車両仕様が大きく変わってしまうこともある。
[編集] 共同運行を行っている路線の例
[編集] 競合運行
- 高速バス
- 名神ハイウェイバス(JR東海バス・西日本JRバス・名阪近鉄バス・名古屋観光日急)
- 阪神から淡路島・徳島 「BLUEネットワーク」と冠しているJR系(西日本JRバス・JR四国バス・本四海峡バス)と私鉄系(阪急バス・阪神バス・南海バス・神姫バス・山陽電気鉄道・神戸山陽バス・淡路交通・徳島バス)
- この間は競合運行と運賃プール精算制が入り乱れているため、乗客は乗車券の購入誤りや乗り間違いが多い。さらに、最近はみなと観光バス (南あわじ市)系の参入で阪神〜淡路島間はトリプルトラックに変化した。
- ホエールエクスプレス(伊予鉄道・高知県交通・土佐電気鉄道)・なんごくエクスプレス(JR四国バス)
- ダイヤのみ調整しているが別路線扱いで、「ダブルトラック」に近い。
- 神奈川県内路線
- 沖縄県内路線
- 27番 (屋慶名(大謝名)線)(琉球バス交通・沖縄バス)
- 227番 (屋慶名おもろまち線)(琉球バス交通・沖縄バス)
[編集] 相互乗り入れ
- 高速バス
- 北海道内路線
- 群馬県内路線
- 東京都23区内路線
- 東京都多摩地域の路線(一部神奈川県内に乗り入れ)
- 聖蹟桜ヶ丘駅・永山駅(小田急・京王)・多摩センター駅(小田急・京王)・京王堀之内駅・南大沢駅発着路線(京王電鉄バス・京王バス南・神奈川中央交通)
- 系統番号も統一、運行ダイヤも調整され、共通定期券も存在するが、運賃支払方法が異なる。京王電鉄バスが中乗り前降り後払い、神奈川中央交通が桜84系統を除いて前乗り中降り先払い・桜84系統は前乗り前降り後払いとなっている。詳しくはこちらを参照されたい。
- 桜22系統(神奈川中央交通)・桜22系統(京王電鉄バス)
- 桜84系統(神奈川中央交通)・桜84系統(京王バス南)
- 永12系統(神奈川中央交通)・永12系統(京王電鉄バス)
- 永12系統(神奈川中央交通)・永12系統(京王電鉄バス)
- 永65系統(神奈川中央交通)・永65系統(京王電鉄バス)
- 永66系統(神奈川中央交通)・永66系統(京王電鉄バス)
- 多03系統(神奈川中央交通)・多03系統(京王電鉄バス)
- 多61系統(神奈川中央交通)・多61系統(京王電鉄バス)
- 堀01系統(神奈川中央交通)・堀01系統 (京王バス南)
- 堀02系統(神奈川中央交通)・堀02系統 (京王バス南)
- 堀03系統(神奈川中央交通)・堀03系統 (京王バス南)
- 南51系統(神奈川中央交通)・南51系統 (京王バス南)
- 南52系統(神奈川中央交通)・南52系統 (京王バス南)
- 聖蹟桜ヶ丘駅・永山駅(小田急・京王)・多摩センター駅(小田急・京王)・京王堀之内駅・南大沢駅発着路線(京王電鉄バス・京王バス南・神奈川中央交通)
- 川崎市内路線
- 横浜市内路線
- 横浜市内の路線バスでは3種類が存在する。
- 神奈川県内その他の路線
- 名古屋市内路線(基幹バス)
- 沖縄県内路線
- 20番 (名護西線)(琉球バス交通・沖縄バス)
- 28番 (読谷(楚辺)線)(琉球バス交通・沖縄バス)
- 29番 (読谷(喜名)線)(琉球バス交通・沖縄バス)
- 111番 (高速バス)(琉球バス交通・沖縄バス・東陽バス・那覇バス)
- 120番 (名護西空港線)(琉球バス交通・沖縄バス)
- 228番 (読谷おもろまち線)(琉球バス交通・沖縄バス)
- ダイヤは両社で完全に共通化され、回数券・定期券も統一されている。また、共同運行路線と競合する琉球バス交通・沖縄バスそれぞれの単独運行路線とも、定期券・回数券が統一されている。
[編集] 運賃プール精算制
現在、複数社で運行する高速バスについては、大半がプール精算制を導入している。ただし、他社の車両に乗務するケースがある場合は運行委託として処理しているため、より計算は複雑になる。
[編集] 付記
佐賀県内各事業者及び沖縄本島4社においては、一部の券種を除くほとんどの回数券について、共同運行形態に関係なく共通利用が可能となっており、発行事業者以外でも利用可能。特に佐賀県では、回数券の割引率が統一されていない(佐賀市交通局の回数券のみ1000円で1200円分、その他の事業者は1000円で1100円分)にもかかわらず共通利用が行なわれている点で特筆される。
[編集] 関連項目
- 高速バス関連
- ムーンライト号 (高速バス)…日本で初めて運賃プール精算制を導入した路線。
- サンライト号…路線開設当初は、もっとも事業者数が多かった共同運行路線(7社)だった。現在は6社共同運行。
- 中央高速バス…伊那・飯田線6社、諏訪岡谷線5社と、事業者数の多い共同運行路線が複数存在する。
- ジェイアールバス関東…高速バスを多数運行していることから、共同運行事業者は41社と最多。
- 他の交通機関の例
- コードシェア便…航空業界における共同運行(共同運航)の例。一社が運航業務の一切を取り扱い、座席の一部を複数社が自社便として販売する。
- 直通運転…鉄道における相互乗り入れの例。共同運行とは若干意味合いが異なるが、車両の運用面で高速バスの共同運行と類似する部分がある。
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