スイッチバック
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スイッチバック(switch back)とは、
- 鉄道において、急勾配を登るためなどの目的で設けられる施設。自動車道路でも設けられる場合がある。
- スキー、スノーボードのアルペン競技において、旗門を通過できなかった選手がコースを逆行して再度旗門を通過しようとする行為。
本項では1.について述べる。
スイッチバックとは、鉄道において、さらに先に進むために、駅や信号場で列車の進行方向を変えて運転すること。またそのための鉄道施設をいう。設備としてのスイッチバックを設置目的別に分類すると次の通りである。
- 勾配を緩和するために、本線上で列車の進行方向を逆転させるもの
- 本線から平坦な場所へ引込み線を分岐させた結果、列車の進行方向の逆転が発生するもの
- 鉄道敷設の経緯などによって作られるもの
狭義では、勾配を克服する事を目的とする1および2の類型のみを指し、(勾配を伴わない)3を含めない考え方もある。
2.の類型については、登坂力の小さい機関車牽引列車を勾配中に停車させる事を避けるために設けられるものであるが、車両の性能が向上したために必要が薄れ、運転上のロスが大きく不利であることなどから廃止の傾向にある。
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[編集] スイッチバック停車場一覧
日本において現存する各類型の例は、次のとおりである。
[編集] 類型1
[編集] 類型2
- 坪尻駅、新改駅(土讃線)
- 中在家信号場(関西本線)使用休止
- 滝山信号場(山陰本線)使用休止
- 羽尾信号場、姨捨駅、桑ノ原信号場(篠ノ井線)
- 二本木駅(信越本線)
- 常紋信号場(石北本線)使用休止
- 鐘釣駅(黒部峡谷鉄道本線)
[編集] 類型3
この類型の形成過程には様々な要因が存在する。例えば、市街地に駅をつくるため(ex.十和田南駅、会津若松駅)や既設の駅に乗入れるための線形上の要因、別々に形成された2路線が後に統合された例(ex.遠軽駅、新可児駅)などがある。ヨーロッパの都市中央駅、ターミナル駅にはこのスタイルの駅が多い。
- 遠軽駅(石北本線)
- 十和田南駅(花輪線)
- 大曲駅(秋田新幹線) - 正式には田沢湖線と奥羽本線だが、実質的に一体。
- 会津若松駅(磐越西線)
- 柏駅(東武野田線)
- 飯能駅(西武池袋線)
- 藤沢駅(小田急江ノ島線)
- 富士吉田駅(富士急行大月線・河口湖線) - 線路名称上2路線にまたがるが、実質的に一体。
- 塩尻駅(中央本線)※2007年1月現在実際にスイッチバックする列車はない。
- 上市駅(富山地方鉄道本線)
- 知立駅(名鉄三河線)※2007年1月現在実際にスイッチバックする列車はない。
- 新可児駅(名鉄広見線)
- 大垣駅(近鉄養老線)※2007年1月現在実際にスイッチバックする列車はない。
- 一畑口駅(一畑電車北松江線)
- 伊万里駅(松浦鉄道西九州線)※2007年1月現在実際にスイッチバックする列車はない。
- 早岐駅(佐世保線)
[編集] その他の方向転換駅
路線の接続方向の関係で、異なる線区に乗り入れるときに進行方向を前後転換することがある。この方向転換についても「スイッチバックする」と表現されることがある。以下は該当する通過列車の存在する駅である。
- 札幌駅(函館本線・千歳線)
- 函館駅もしくは五稜郭駅(函館本線・江差線)
- 青森駅(東北本線・奥羽本線・津軽線)
- 野辺地駅(東北本線・大湊線)
- 川部駅(奥羽本線・五能線)
- 弘前駅(奥羽本線・五能線:快速リゾートしらかみ運転時のみ)
- 大館駅(奥羽本線・花輪線)
- 東能代駅(奥羽本線・五能線:快速リゾートしらかみ運転時のみ)
- 花巻駅(東北本線・釜石線)
- 釜石駅(釜石線・山田線)
- 盛駅(大船渡線・三陸鉄道南リアス線:快速リアス・シーライナー運転時のみ)
- 小牛田駅(石巻線・陸羽東線)
- 前谷地駅(石巻線・気仙沼線)
- 小山駅(両毛線・宇都宮線)
- 所沢駅(西武新宿線・西武池袋線:1993年以降西武球場での野球開催・イベント時のみ)
- 高幡不動駅(京王線・京王動物園線)
- 蒲田駅(東急多摩川線・東急池上線)
- 京急蒲田駅(京急本線・京急空港線)
- 大月駅(中央本線・富士急行大月線)
- 新潟駅(信越本線・白新線)
- 長岡駅もしくは宮内駅(上越線・信越本線)
- 岡谷駅(中央本線・飯田線)
- 寺田駅(富山地方鉄道本線・富山地方鉄道立山線:アルペン特急のみ)
- 金沢駅(北陸本線・七尾線)
- 富士駅(東海道本線・身延線)
- 豊橋駅(東海道本線・飯田線)
- 多治見駅(中央本線・太多線)
- 金山駅(名鉄名古屋本線・名鉄常滑線)
- 犬山駅(名鉄犬山線・名鉄広見線)
- 岐阜駅(東海道本線・高山本線)
- 伊勢中川駅(近鉄大阪線・近鉄名古屋線:名張発名古屋行急行1本のみ)
- 米原駅(東海道本線・北陸本線)
- 近江塩津駅(北陸本線・湖西線)
- 八日市駅(近江鉄道本線・八日市線)
- 綾部駅(山陰本線・舞鶴線)
- 西舞鶴駅(舞鶴線・北近畿タンゴ鉄道宮津線)
- 宮津駅(北近畿タンゴ鉄道宮福線・北近畿タンゴ鉄道宮津線)
- 川西能勢口駅(阪急宝塚本線・能勢電鉄妙見線:特急日生エクスプレスのみ)
- 高田駅(和歌山線・桜井線)
- 姫路駅(山陽本線・播但線)
- 上郡駅(山陽本線・智頭急行智頭線)
- 豊岡駅(山陰本線・北近畿タンゴ鉄道宮津線)
- 米子駅(山陰本線・境線)
- 川跡駅(一畑電車北松江線・一畑電車大社線)
- 茶屋町駅(本四備讃線・宇野線)
- 高松駅(予讃線・高徳線):岡山発着の特急「うずしお」のみ)
- 宇多津駅(予讃線・本四備讃線):同上
- 小倉駅(鹿児島本線・日豊本線)
- 西鉄二日市駅(西鉄天神大牟田線・西鉄太宰府線)
- 熊本駅(鹿児島本線・豊肥本線)
方向転換の変遷が生じた例で著名なケースとして中央本線塩尻駅がある。塩尻駅は本来中央本線の中間駅で方向転換駅ではなかった。しかし中央本線の運行系統は塩尻駅を境に東西に分かれており、双方が塩尻駅から篠ノ井線方面と直通する結果、名古屋駅方面から篠ノ井線方面に直通する列車が方向転換することになった。後にこれを解消するために塩尻駅を200メートル北に移転して配線を変え、名古屋駅方面から篠ノ井線方面へのスイッチバック状態を解消した。現在では中央本線だけを見ると塩尻駅で方向転換する構造となっているが、通過する列車は篠ノ井線系統直通であり、塩尻駅でスイッチバックする列車はない。
この他、黒部峡谷鉄道本線鐘釣駅(類型2に含まれる)や能勢電鉄日生線山下駅のように、駅の構造上止むを得ずスイッチバックを行うこともある(詳細は各駅の項を参照のこと)。
[編集] かつてスイッチバックが存在した停車場
- 錦沢駅(夕張鉄道) 類型1。1975年、路線廃止に伴い廃駅。
- 大志田駅、浅岸駅(山田線) 類型2。1982年、本線上へのホーム移設によりスイッチバック解消。
- 米谷駅(仙北鉄道登米線) 類型3。1968年、路線廃止に伴い廃駅。
- 赤岩駅、板谷駅、峠駅、大沢駅(奥羽本線) 類型2。1990年、改軌工事と同時に本線上にホームが移設され、スイッチバック解消。
- 中山宿駅(磐越西線) 類型2。1997年、本線上へのホーム移設によりスイッチバック解消。
- 元宿駅、六本松駅、大日向診療所前駅、水沢駅(東武伊香保軌道線) 類型2。1956年の路線廃止に伴い廃駅。
- 二度上駅(草軽電気鉄道) 類型1。1960年の路線区間廃止に伴い廃駅。
- 東三原駅、万座温泉口駅(草軽電気鉄道) 東三原駅は類型1、万座温泉口駅は類型2。1962年の路線廃止に伴い廃駅。
- 大網駅(外房線) 類型3。駅移転により1972年にスイッチバック解消。
- 横浜駅(初代。現・桜木町駅。東海道本線) 類型3。1915年、別ルート建設に伴う終端駅化によりスイッチバック解消。
- 松井田駅(信越本線) 日本で最古のスイッチバック駅。1962年、駅移設によってスイッチバック解消。
- 熊ノ平駅(信越本線) 類型2。1966年、信号場へ降格時にスイッチバック解消(1997年の路線廃止に伴い廃止)。
- 御代田駅(信越本線;現・しなの鉄道線) 類型2。1968年、駅移設によってスイッチバック解消。
- 関山駅(信越本線) 類型2。1985年、本線上へのホーム移設によりスイッチバック解消。
- 湯田中駅(長野電鉄長野線) 類型3。2006年9月に駅構内改良工事が実施されスイッチバック解消。
- 初狩駅(中央本線) 類型2。1968年、複線化に伴いホームが本線上に移設された。但しスイッチバックは貨物列車用として残されている。
- 笹子駅(中央本線) 類型2。1966年、複線化に伴いホームが本線上に移設され、スイッチバック解消。
- 勝沼駅(現・勝沼ぶどう郷駅。中央本線) 類型2。1968年、複線化に伴いホームが本線上に移設され、スイッチバック解消。
- 穴山駅、長坂駅(中央本線) 類型2。1973年、複線化に伴いホームが本線上に移設され、スイッチバック解消。
- 膳所駅(東海道本線) 類型3。1889年、湖東線全通に伴い解消。日本最古の折り返し型スイッチバック駅
- 東塩尻信号場(中央本線) 類型2。信号所だが旅客も扱った。1983年廃止。
- 谷峨駅、富士岡駅、岩波駅(御殿場線) 類型2。本線上にホームが移設され、スイッチバック解消。
- 遠州馬込駅(遠州鉄道鉄道線) 類型3。1985年、新浜松駅~助信駅間の高架化に伴い路線が付け替えられ、廃駅。
- 東赤谷駅(赤谷線) 類型2。路線終点がスイッチバック構造となっている珍しい駅だった。1984年の路線廃止に伴い廃駅。
- 西長岡駅、寺泊海水浴駅(越後交通長岡線) 西長岡駅は類型3、路線短縮に伴い1993年スイッチバック解消。寺泊海水浴駅は類型1、路線短縮に伴い1966年廃駅。
- 上見附駅(越後交通栃尾線) 類型3。1975年、路線廃止に伴い廃駅。
- 美濃大久保駅(西濃鉄道昼飯線) 類型3。2006年の路線廃止に伴い廃駅。
- 岡本新駅(福井鉄道南越線) 類型3。1971年、路線区間廃止に伴い廃駅。
- 新保駅、大桐駅(北陸本線) 類型2。1962年、北陸トンネル経由の新線移行により廃駅。
- 刀根駅(北陸本線→柳ヶ瀬線) 類型2。1964年、路線廃止に伴い廃駅。
- 膳所駅(東海道本線) 類型3。1889年、湖東線全通に伴い解消。日本最古の折り返し型スイッチバック駅
- 浜大津駅(京阪電鉄) 類型3。1981年、浜大津駅統合に伴い解消。
- 諸原駅(尾道鉄道) 類型1。1957年、路線廃止に伴い廃駅。
- 呼野駅(日田彦山線) 類型2。1983年、本線上へのホーム移設によりスイッチバック解消。
- 東唐津駅(筑肥線) 類型3。1983年、路線移設に伴い駅も移転となり、スイッチバック解消。
- 本川内駅(長崎本線) 類型2。2002年、本線上へのホーム移設によりスイッチバック解消。
- 藤崎宮前駅(熊本電気鉄道藤崎線) 類型3。1954年、路線短縮に伴いスイッチバック解消。
- 薩摩永野駅(宮之城線) 類型3とされるが、他説もある。1987年の路線廃止に伴い廃駅。
- 北宇智駅(和歌山線) 類型2。2007年3月に駅構内改良工事が実施されスイッチバック解消。
[編集] スイッチバック回数
2005年12月現在、日本の営業鉄道路線における1列車あたりの最大スイッチバック回数は「3回」である。うち、狭義の「勾配を克服するスイッチバック」にあたるのは、箱根登山鉄道鉄道線列車(出山信号場・大平台駅・上大平台信号場の3回)のケースのみであり、以下に挙げるその他の例は分岐駅での単なる方向転換に過ぎない。
※タンゴディスカバリー1号は久美浜駅~城崎温泉駅間快速列車。
一般営業鉄道でない路線では遙かに極端なケースとして、国土交通省立山砂防工事事務所(富山県)の管轄する立山砂防工事専用軌道での延べ38段という特異例がある。同路線の樺平連絡所付近には世界的にも類例がないとみられる18段に及ぶ連続スイッチバック区間がある。峻険な急斜面を登坂するための工事用軌道であり、部外者の乗車は砂防工事見学会への参加という限られたケースを除き、許可されない。
[編集] 「加速線」
[編集] 概要
スイッチバックに類似したものとして、「加速線」と呼ばれるものがある。
停車場自体が勾配上にあるか、停車場の構内を出た直後に勾配がある場合、停車した列車が十分な加速をする前に上り勾配にかかってしまい、登坂に必要な力が得られない場合がある。このような場合、停車場の下り勾配側に水平(ないしは駅・信号場に向かって若干の下り勾配)の引き込み線を設置することがあり、これを「加速線」と呼ぶ。停車場から上り勾配方へ進行する列車は、いったん加速線に待避し、加速線上で十分な速度を得てから上り勾配に向かう。
停車場の下り勾配方のみに引き込み線があり、上り勾配方には引き込み線がないことが、スイッチバックとの構造上の違いである。また、その性質上、加速線を利用するのは勾配を上る列車だけで、下る列車は利用しない。
登坂力の弱い機関車牽引列車が減り、代わって電車や気動車が主力となると、スイッチバック同様に不必要となり消えていった。
[編集] 加速線のあった駅・信号場
[編集] 自動車でのスイッチバック
自動車の場合には舗装路面とタイヤとの摩擦が大きく登坂能力や機動性に富んでいるため、鉄道のようなスイッチバックを要する例は多くはないが、険しい山間部の林道などで希に類似の例が見られる場合もある。
[編集] 関連項目
[編集] その他
作者菊池直恵、案内人横見浩彦の漫画『鉄子の旅』の作品中にもよく登場し、同作品を掲載する月刊IKKIの編集長である江上英樹はスイッチバックファンであり、本人が持つ以下のホームページで各スイッチバックの解説がある。