世に万葉の花が咲くなり
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世に万葉の花が咲くなり | ||
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サザンオールスターズ の アルバム | ||
リリース | 1992年9月26日 1998年5月22日(再発) |
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録音 | 1991年10月~1992年8月 VICTOR STUDIO 猫に小判STUDIO |
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ジャンル | ロック | |
時間 | 72分32秒 | |
レーベル | ビクタータイシタ | |
プロデュース | サザンオールスターズ 小林武史 |
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チャート順位 | ||
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ゴールド等認定 | ||
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売上枚数 | ||
サザンオールスターズ 年表 | ||
Southern All Stars (1990年) |
世に万葉の花が咲くなり (1992年) |
HAPPY! (1995年) |
『世に万葉の花が咲くなり』(よにまんようのはながさくなり)は、サザンオールスターズの10枚目のオリジナルアルバム。1992年9月26日発売。発売元はビクターTAISHITAレーベル。
目次 |
[編集] 解説
公式にはサザン名義のオリジナルアルバムとなっている前作『稲村ジェーン』は、同名映画のサウンドトラックであり、既発曲も収録されているため厳密には『Southern All Stars』以来約2年8ヶ月ぶりのオリジナルアルバムとなる。同年はシングル「シュラバ★ラ★バンバ」と「涙のキッス」の同発でオリコンシングルチャートで2週にわたり1,2位独占を記録。本作はオリコン集計で約179万枚(ビクター発表によると245万枚)を売り上げ、当時の自己最高セールスにもなった。
収録曲数は16曲。桑田は製作中にラジオで「今回は2枚組になるかも」と話していたが、結果的に収録時間は72分(12cmCDの収録時間は74分まで)ギリギリ1枚に収められた。この後同様の事態が『さくら』にも発生した。収録曲は16曲となり、2枚組の『KAMAKURA』は除き、オリジナルアルバムとしては当時サザン最多の曲数であった。規格がLPからCDへ変わり、業界の流れがそうなったことも影響している。しかし、現物としてのLP盤が存在しないにもかかわらず、1998年の再発時の初回プレスでは、LPジャケットを模した紙ジャケットで発売された。これは実際にLP版が存在していたそれまでのアルバムが、すべてそのような再発形態になったことに合わせたものである。
1988年辺りからシングル作品を中心にアレンジャーとして参加していた小林武史が本格的に参加。編曲にもほぼ全般で加わっている。編曲者のクレジットでも、『Southern All Stars』まで“サザンオールスターズ & 小林武史”であったのが、“小林武史 & サザンオールスターズ”と小林が先導した名義になっている。また、小林にはインストゥルメンタル作成でのクレジットもついており、曲によってはイントロや、間奏のメロディ作成も担当したことが分かる。
途中ベースの関口和之が休養に入りレコーディングに参加していない為か、敢えてベースにシンセベースを利用した曲が多く、デジタル音が多くなっているのが本アルバムの特徴である。また、ベースは桑田が原曲作りに使用したり、小林が演奏した曲もある。それでも曲個々での完成度、人気は高いものが多く、『バラッド3 ~the album of LOVE~』に収録された曲も多いためか、『KAMAKURA』と並び傑作とも称されることもある。B'zの松本孝弘は、本作を自身の中で好きなアルバムとして挙げている。
タイトルの長さからファンには「世に万」「万葉」などと略されることが多いが、桑田のラジオ番組『桑田佳祐のキヤノンFMワンダーランド~やさしい夜遊び~』の中では、本作を「よさく」と略したことがある。無論北島三郎の代表曲「与作」を捩ったものである。また、仮タイトルは「万葉集」の予定であったが、後のことを考え、現在のタイトルに落ち着いたといわれる。
CDラベルは雑誌の切抜きを散りばめたようになっているが、これは実際に桑田が一晩かけて新聞を切り抜き、『世に万葉の花が咲くなり』という言葉を抜枠して製作したものである。ジャケットにはタイトルおよびアーティスト名はなく赤字にさまざまな色の絵の具を垂らした風変わりなもの(ジャクソン・ポロックを意識したものと思われる)で、内容の濃さを物語っている。前2作には海や夏をイメージさせるような爽快なものが多かったが、本作はディープなものが多く、後期アルバムでいうと『さくら』のような世界観もある。
ちなみに本作の再発盤では、サポートメンバーの菅坡雅彦の名前が“菅坂雅彦”と誤ってクレジットされている。
これまで1980年代の桑田は歌詞の文法やサウンドの作りに英語や洋楽志向が高かった。桑田自身、ロックを歌うためには、日本語よりも英語の方が適していると考えていたこともあり、1980年代後半の楽曲には、英語で歌われている曲も多い。そんな桑田が新しい方向性として、「日本語」の味を追求することに意味を見出したすようになった影響を見ることができるのが本作である。本作はタイトルやジャケットでも示すように、古語のイメージを重視した楽曲が多く、アルバム全体では時間の重さを感じ取ることができる。本作は"日本語"を歌詞において重視したアルバムである。
プロデューサーの小林武史が同作品の紙ジャケット発売時にライナーノーツを掲載しており、「非常にクオリティの高いアルバム」と評価しつつ、その中で特に今だ新鮮さを失わない曲に「HAIR」「ブリブリボーダーライン」「亀が泳ぐ街」の3曲を挙げている。
結果的に2枚組ではなく1枚に収めたために、当然いくつか未収録(ボツ)になった曲もある。前年のシングル「ネオ・ブラボー!!」もその1つであるが、この曲は英語との口語表現を用いた歌詞が目立つため、この曲が未収録になったことにより、日本語詞を重点におくというコンセプトでアルバムがまとめられることとなった。しかし、その一方「ネオ・ブラボー!!」は現在でもシングル盤にのみ収録されている入手困難な楽曲になっている。
アルバムリリース直後に行われた全国ツアー『歌う日本シリーズ1992~1993』の際に会場で販売されたパンフレットには、16曲をイメージした、16人のプロのイラストレーターによる16枚のイラストと共に、桑田による曲の解説も記載された。
[編集] 収録曲
シングル収録曲は各シングルで説明しているため、ここでは説明を省略する。
- BOON BOON BOON ~ OUR LOVE [MEDLEY]
(作詞・作曲:桑田佳祐 英語補作詞:Tommy Snyder 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
~はメドレーの意味。歌詞の内容はオペラ用語やフランス語、イタリア語などを基にし、桑田なりに日本語との言葉遊びでアレンジしたものである。男女の肉欲がテーマで、歌詞にあるコブラとは、男性器を指した桑田考案の隠語。 - GUITAR MAN'S RAG (君に奏でるギター)
(作詞・作曲:桑田佳祐 英語補作詞:Tommy Snyder 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
ギターを女性の体に例え、時に激しく、時に優しく奏でる事がテーマ。 - せつない胸に風が吹いてた
(作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
学生時代、音楽サークルの大勢の仲間達が、「もう遊んでいられない」「所詮は憧れ。音楽なんかで食っていけるわけがない」と、就職活動などでバンドから次々と離れていった時の寂しさを唄ったナンバー。そのため、桑田作の楽曲としては数少ない友人へ向けた歌詞になっている。1992年12月30日から1993年1月1日にかけて放送されたTBS系「39時間テレビ」のテーマ曲。 - シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA-BAMBA
(作詞・作曲:桑田佳祐 英語補作詞:Tommy Snyder 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
同年発売の30thシングル。語感重視の歌詞が特徴。 - 慕情
(作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ 弦編曲:桑野聖)
「失恋」をテーマとしたスローテンポのバラード。人気も高く、ベストアルバム『バラッド3 ~the album of LOVE~』収録、『HAPPY!』の最終曲でもある。今作で初めて使われた歌詞「慕情」は、「無情」と共にその後の作品にも度々登場している。 - ニッポンのヒール
(作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
歌い方、歌詞ともにボブ・ディランに影響されたもので、社会を風刺した曲。 - ポカンポカンと雨が降る (レイニー ナイト イン ブルー)
(作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
原由子ボーカル曲。ザ・ピーナッツの『恋のフーガ』や山口百恵の『ひと夏の経験』等を連想させる歌謡曲で、歌詞も不倫を唄っており、原ボーカル曲としては一際重いテーマである。小林武史によると、作曲当初は野沢秀行がボーカルをとる案もわずかな期間ながらあったらしく、完成曲とはかなり雰囲気が違っていたと『別冊カドカワ』内で語っている。 - HAIR
(作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
イントロから続くアコースティック・ギターやピアノを主体とした落ち着いたメロディのバラード曲だが、サビの歌詞は大変過激であり、もはや暴走気味である。「~にて塗るらん」など、アルバムタイトルのように古典を思わせる部分がある。『バラッド3』にも収録された。桑田は作曲をギター、稀にピアノで行うが、本曲はベースで作ったとの事。 - 君だけに夢をもう一度
(作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
30thシングル「シュラバ★ラ★バンバ」c/w。TOYOTA「カリーナ」CMソングにもなった。 - DING DONG (僕だけのアイドル)
(作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
女に対する男の「支配欲」を唄ったロリータ・コンプレックスがテーマ。奈良小1女児殺害事件が発生した2004年の年越しライブ『暮れのサナカ』では1曲目として演奏されたため、この事件をきっかけに1曲目に採用した可能性が高い。 - 涙のキッス
(作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
「シュラバ★ラ★バンバ」と同発の31stシングル。王道バラード曲で、サザン初のシングルでのミリオンセラーを達成した。 - ブリブリボーダーライン
(作詞・作曲:桑田佳祐 英語補作詞:Tommy Snyder 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ 管編曲:村田陽一)
語感重視の歌詞が特徴となっている。ところどころに性に関する隠語が隠されている。ブラスのノリが非常に良い曲で、ライブでは比較的よく演奏され、サビでは「みんなのうた」同様、観客が両手を左右に振るのが定番であるが、近年はライブで披露されることが少ない。 - 亀が泳ぐ街
(作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ 管編曲:山本拓夫)
タイトルに相応しく気だるいメロディで、歌詞は昭和30年代の、高度経済成長の真っ只中にある東京の情景を、ノスタルジックにでは無くかなり生々しい表現で唄っている。
演奏時間は7分4秒(リマスターエディションより)にも及び、当時サザンオールスターズの楽曲では最長であった。曲調はローテンポであり、ファンの人気も高くなかったためあまり重宝される曲ではなかった。桑田がインタビューの中で「ライブでこの曲が始まると客が一斉にトイレに行く」などと語っている。しかし桑田や小林は気に入っている曲であり、限定盤ベストアルバム『HAPPY!』収録時に桑田は「この曲を再生時にスキップできないように加工したかった」と語っている。 - ホリデイ ~スリラー「魔の休日」より
(作詞・作曲:桑田佳祐 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
31stシングル「涙のキッス」c/w。 - IF I EVER HEAR YOU KNOCKING ON MY DOOR
(作詞:Tommy Snyder 作曲:桑田佳祐 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
全英語詞曲で、サザンでは初のトミー・スナイダー単独の作詞曲。「忘れられた Big Wave」と同様のア・カペラ曲で、桑田の声を8人分重ねた多重録音で編集されている。基本的にア・カペラ曲であるが、曲の後部にはコンガの演奏、最後の部分で鐘の音のSEが入って次曲に繋いでいる。
全英語詞なのは、本作を表現するには日本語では表現できない、しっくり来ないからとの事。
『キラーストリート』収録の「The Track for the Japanese Typical Foods called “Karaage” & “Soba” ~ キラーストリート (Reprise)」が発表されるまでは、サザンの楽曲中最もタイトルの長い曲であった。 - CHRISTMAS TIME FOREVER
(作詞・作曲:桑田佳祐 英語補作詞:Tommy Snyder 編曲:小林武史 & サザンオールスターズ)
1980年のシングル「シャ・ラ・ラ」以来となるクリスマスソング。翌年発売のシングル「クリスマス・ラブ (涙のあとには白い雪が降る)」が純粋なクリスマスソングであるのに対し、この曲は世界の平和を願うことを歌ったクリスマスソングとなっている。そのため、コンセプトとしてはジョン・レノン&オノ・ヨーコの『Happy Xmas (War Is Over)』に近いものである。また、間奏では合唱として“少年少女合唱団みずうみ”が参加している。丸井CMソングにもなった。
[編集] 参加ミュージシャン
- 桑田佳祐:Vocals, Guitars
- 大森隆志:Guitars
- 原由子:Keyboards, Vocals, Chorus
- 関口和之:Bass
- 松田弘:Drums
- 野沢秀行:Percussions
- 小林武史:Keyboards, Rhythm Programming, Synth Bass, Sampling Instruments, Guitars
- BOON BOON BOON~OUR LOVE [MEDLEY]
- GUITAR MAN'S RAG (君に奏でるギター)
- 佐橋佳幸:Guitars
- 角谷仁宣:Computer & Synthesizer Operation
- せつない胸に風が吹いてた
- 佐橋佳幸:Guitars
- 角谷仁宣:Computer & Synthesizer Operation
- シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA-BAMBA
- 角谷仁宣:Computer Operation
- 慕情
- 桑野聖:Violin
- 角谷仁宣:Computer & Synthesizer Operation
- ニッポンのヒール
- ポカンポカンと雨が降る (レイニー ナイト イン ブルー)
- 小倉博和:Guitars
- 角谷仁宣:Computer & Synthesizer Operation
- HAIR
- 根岸孝旨:Bass
- 山本拓夫:Baritone & Tenor Sax, Flute
- 荒木敏男:Trumpet
- 村田陽一:Trombone, Euphonium
- 桑野聖:Violin
- 庭田薫:Violin
- 大久保祐子:Violin
- 角谷仁宣:Computer & Synthesizer Operation
- 君だけに夢をもう一度
- DING DONG (僕だけのアイドル)
- 佐橋佳幸:Guitars
- 包国充:Tenor Sax
- 角谷仁宣:Computer & Synthesizer Operation
- 涙のキッス
- 小倉博和:Electric Guitar
- 美久月千晴:Bass
- 角谷仁宣:Computer Operation
- ブリブリボーダーライン
- 山本拓夫:Baritone & Tenor Sax, Flute
- エリック宮城:Trumpet
- 菅坡雅彦:Trumpet
- 村田陽一:Euphonium
- 竹野昌邦:Tenor Sax
- 佐藤潔:Tuba
- 角谷仁宣:Computer & Synthesizer Operation
- 亀が泳ぐ街
- 荒木敏男:Trumpet
- 村田陽一:Euphonium
- 角谷仁宣:Computer & Synthesizer Operation
- ホリデイ ~スリラー「魔の休日」より
- 角谷仁宣:Computer Operation
- CHRISTMAS TIME FOREVER
- 小倉博和:Guitars
- 少年少女合唱団みずうみ:Chorus
前作 | サザンオールスターズのオリジナルアルバム | 次作 |
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Southern All Stars | Young Love |
オリコン週間アルバムチャート第1位 1992年10月5日付~1992年10月26日付 (4週連続) |
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前作: 平松愛理 『Erhythm』 |
サザンオールスターズ 『世に万葉の花が咲くなり』 |
次作: 竹内まりや 『Quiet Life』 |
日本レコード大賞アルバム大賞受賞作品 | ||
前年度 1991年 第33回 堀内孝雄 『GENTS』 山下達郎 『ARTISAN』 |
1992年 第34回 坂本冬美 『男惚れ』 サザンオールスターズ 『世に万葉の花が咲くなり』 |
次年度 1993年 第35回 竹内まりや 『Quiet Life』 |