狭軌
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狭軌(きょうき、Narrow gauge)は、鉄道線路のレール間隔をあらわす軌間が標準軌の1435mm(4フィート8.5インチ)未満のものをさす。書物において「狭軌」の記述がある場合、京王電鉄京王線・京王新線・相模原線・高尾線・動物園線・競馬場線と京王相模原線に乗り入れる都営地下鉄新宿線、さらに東京都内と函館市で軌道線に採用される1372mmは除外され、1067mmを指すことが多い。特に、約3フィート(あるいは1m)未満のものは軽便鉄道として敷設されたものが多く、趣味的にナローゲージと云われる場合にこれを指す場合が多い(ただし軽便鉄道は、狭軌であることを要件とせず、標準軌路線も存在した)。
日本では、国有鉄道自体が狭軌であったため、国有化買収路線のなかに存在した762mm軌間の路線については特殊狭軌線と呼ばれた。
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[編集] 性質
実際、経済的なナローゲージを実現しようとすると約3フィート以下の軌間が必要となる。メーターゲージあるいは米国3フィートゲージと呼ばれる軌間が一般的であるが、他にも各種の軌間がみられる。例えばインドの鉄道では610mm(24インチ)軌間と762mm(30インチ)軌間の路線が3794kmにもわたって存在する。
これらナローゲージは、より小型の車両や機関車、橋梁やトンネル、小半径の曲線を採用することにより線路施設の構造をより軽量化できるため、路線コストを低廉化することが可能である。このため、森林鉄道ではしばしば採用される。同様に、軽量構造は林業に適する。木材の伐採が終わったら線路は移動しなくてはならないからである。いくつかのナローゲージの森林鉄道は、実質的には森のなかを路盤無しで支脚だけの上に敷設された。
[編集] 主な狭軌
- 508mm(20インチ)
- 600mm
- 610mm(24インチ=2フィート)
- 762mm(30インチ=2フィート6インチ)「ニブロク」、「特殊狭軌」
- 914mm(3フィート)
- 1000mm「メーターゲージ」
- 1067mm(3フィート6インチ)「三六軌間」
- 1372mm「馬車軌間」
なお、営業用として運行される鉄道で最も狭いゲージは381mm(15インチ)で、イギリスのロムニー・ハイス&ダイムチャーチ鉄道が有名である。(英語版Wikipedia:Romney, Hythe and Dymchurch Railway)日本の静岡県伊豆市修善寺にある虹の郷には、この鉄道と同規格の車両による園内路線が敷設・運行されている。
[編集] 三六軌間
後述するように、日本で多く用いられている軌間は1,067mmであり、一般に「三六軌間」と呼ばれている。3フィート6インチから来たものである。
ドイツでは、この軌間を最初に用いたノルウェー人Carl Abraham Pihlのイニシャルにちなんで、Kapspur(ドイツ語:CがKに書き換えられている)と呼ばれている。
また、英語ではcape gaugeと呼ばれる。英国の植民地であったケープタウン周辺(南アフリカ)で用いられていたことに由来している。
[編集] 日本の三六軌間
日本の大多数の路線は1,067mm(3フィート6インチ)軌間で敷設されている。これは、まだ国力の弱い日本の経済実情と山や河川の多い地理事情に合わせただけという見方が一般的である。 イギリス本国においても、狭軌は炭鉱のあったウェールズ地方などの山間部で、地形に適した鉄路として採用されているため、山が海岸に迫っていて平地が少なく海岸線も入り組んでいることから、トンネルや鉄橋を多用しなければならなかった日本で狭軌を採用することには、合理性がある。 鉄道導入にあたって技術指導を求めたイギリスが植民地において採用した軌間であるため、文明の遅れた植民地並みと見なされたというとらえ方もあるが、日本はイギリス以外にアメリカやドイツから鉄道車両や技術を輸入している為、この見解は疑問である。日本の鉄道開業も参照のこと。
その後、鉄道院時代に総裁後藤新平の指示で、島安次郎らによって標準軌への改軌の技術的な検討もされたりしたが(改主建従)、地方への鉄道敷設推進による政権支持の確保という、政治的な理由から、一ランク低い規格のまま、全国的な鉄道網の建設が続行された(建主改従)。日本の改軌論争も参照のこと。
地方鉄道法により、使用できる最大のゲージが狭軌に制限されていたため、私鉄を含めて狭軌が広まった。この制限は、後で政府が私鉄を買い上げて国有鉄道に一体化することを前提としていたからである。また、場合によっては相互乗り入れによる物資と人員の輸送を可能にすることも想定していたからでもある。
関西地方の私鉄に標準軌が多いのは、地方鉄道法によらず軌道法の拡大解釈に基づいて専用軌道を敷設したことによる。しかし(他地区も含めた)標準軌路線であっても、車両限界は国鉄と同じか、それ以下であることも多い。この場合、トンネル断面積や駅の設備など、結局建設コストに大差はなく、「イギリスの植民地扱いで日本は狭軌になった」説の1つの根拠になっている(実際、これらの私鉄は初期にはヨーロッパではなくアメリカから車両を輸入しているケースが多い)。
その後、新幹線計画においては高速化を実現するために、狭軌ではなく標準軌で建設された。
1,067mm軌間を採用する主な路線は次の通り。
- JRグループ/日本国有鉄道および旧国鉄・JR路線を転換した第三セクター鉄道(新幹線・博多南線および新在直通区間を除く。一部三線軌条)
- 東京地下鉄(銀座線、丸ノ内線を除く)
- 札幌市交通局(札幌市電一条・山鼻西・山鼻線)
- 仙台市交通局(仙台市営地下鉄南北線)
- 京王電鉄(井の頭線のみ)
- 東京急行電鉄
- 小田急電鉄
- 箱根登山鉄道(小田原駅~箱根湯本駅間のみ)
- 西武鉄道
- 東武鉄道
- 相模鉄道
- 東京都交通局(都営三田線のみ)
- 東京臨海高速鉄道(りんかい線)
- 首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス線)
- 名古屋鉄道
- 名古屋市交通局(鶴舞線・桜通線・上飯田線)
- 名古屋臨海高速鉄道(あおなみ線)
- 京阪電気鉄道(鋼索線のみ)
- 南海電気鉄道
- 大阪府都市開発(泉北高速鉄道線)
- 近畿日本鉄道(南大阪線・吉野線・伊賀線・養老線・生駒鋼索線等)
- 西日本鉄道(現在は貝塚線のみ)
- 豊橋鉄道
- 静岡鉄道
- 富士急行
- 伊豆急行
- 伊豆箱根鉄道
- 遠州鉄道
- えちぜん鉄道
- 富山地方鉄道
- 弘南鉄道
- 津軽鉄道
- 十和田観光電鉄
- くりはら田園鉄道
- 神戸電鉄
- 福岡市交通局(空港線・箱崎線)
- 鋼索線(箱根登山鉄道鋼索線・伊豆箱根鉄道十国鋼索線・鞍馬山鋼索鉄道・能勢電鉄妙見ケーブルを除く)
- 岡山電気軌道
[編集] 日本以外の三六軌間
1067mmの軌間を採用する国の例は次の通り。
また、南アフリカ共和国でも3フィート6インチで建設されたが、メートル法の採用時に軌間を1065mmと定めているが、実質は同じである。
アメリカ合衆国では、サンフランシスコのケーブルカーがこの軌間で現存している他、1963年まで存在したロサンゼルスの市街電車や、1950年まで運行されていたデンバーの市街電車の軌間が1067mmであった。
[編集] 馬車軌間
この他の日本の狭軌線には1372mm軌間がある。その出自から馬車軌間とも呼ばれ、標準軌・旧国鉄採用軌間とも違うことや使用線区の特殊性から偏軌・変則軌道とも言われる。また、東京とその周辺では一時広く採用されたのに対し、国内のみならず世界的に見ても、それ以外での使用例がきわめて少ないことから、東京ゲージの呼称を提唱している鉄道史家もいる。
これは東京馬車鉄道(この時代の軌間は767mmあるいは737mmとされる)の路線網を引き継いだ東京電気鉄道が東京初の電車を走らせ始めたときに用いられた規格で、その路線は後に東京市電気局を経て東京都電などに引き継がれた。
2005年現在、これを採用している鉄道会社・路線には次のようなものがある。
- これらは東京都電とのつながり(直通、車両の流用)から採用された。特に京王電鉄については、その創業期に東京市電への乗り入れを計画したため1372mmを採用し、地方鉄道として開通させた府中駅~東八王子駅間では1067mmから1372mmへの改軌もしたが、乗り入れは実現しなかった。後に都営新宿線を建設する際、相互乗り入れを予定している京王帝都に対して1435mmへの改軌を要求したが、(営業運転を継続しながら改軌に成功した1950年代の京成に比べ)1970年代の京王線のダイヤと車両数では営業を続けながらの改軌工事が不可能であったことなどから拒否され、都営新宿線の方が京王に合わせて1372mm軌間を採用したという経緯がある。
過去の例としては以下の鉄道会社・路線がある。
- 京浜急行電鉄は、その前身である京浜電気鉄道時代の一時期(1904年~1933年)に、1372mm軌間へと改軌し東京市電に乗り入れていた。
- 京成電鉄では都営地下鉄1号線(現浅草線)乗り入れ前の1959年に標準軌に改修するまで採用していた。王子電気軌道(現在の都電荒川線)への乗り入れを構想していたためである。
- 京成の子会社の新京成電鉄は、1947年に1067mmで開業した後、1953年、京成に合わせて1372mmに改軌し、さらに京成と同じく1959年には標準軌に改軌している。
- 現在の東急世田谷線の本線に当たり、1969年に廃止された東急玉川線も同じ軌間であった。
- 横浜市交通局(横浜市電)、1972年廃止。
- 西武鉄道(旧)大宮線。東京市電の払い下げ車を使用していた。並行して省線川越線が開通したため1941年廃止。
[編集] 特殊狭軌
日本で1067mm未満の軌間を採用している路線で、現存するものには次のものがある。
- 普通鉄道線
- 工事用軌道・森林軌道
- 安房森林軌道 (762mm)
- 国土交通省立山砂防工事専用軌道 (610mm)
かつて存在した路線は非常に多く、第二次世界大戦中に不要不急路線として廃止されたもの、1960年代前後に道路交通の整備により役目を終えて廃止されたものがあった。
- 旧日本陸軍鉄道連隊、後の新京成電鉄(762mm、1946年に1067mm、1953年に1372mm、1959年に1435mm(標準軌)に改軌)
- 根室拓殖鉄道(762mm、1959年廃止)
- 歌登町営軌道(762mm、1971年廃止)
- 花巻電鉄(762mm、1969年廃止)
- 磐梯急行電鉄(762mm、1969年廃止)
- 湘南軌道(762mm、1937年廃止)
- 九十九里鉄道(762mm、1961年廃止)
- 越後交通栃尾線(762mm、1975年廃止)
- 草津軽便鉄道(後の草軽電気鉄道)(762mm、1961年廃止)
- 尾小屋鉄道(762mm、1977年廃止)
- 静岡鉄道駿遠線(762mm、1970年廃止)
- 遠州鉄道奥山線(762mm、1964年廃止)
- 三重交通松阪線(762mm、1964年廃止)
- 三重電気鉄道湯の山線(762mm、1964年に1435mm(標準軌)に改軌)
- 安濃鉄道(762mm、1944年休止)
- 中勢鉄道(大日本軌道伊勢支社、762mm、1943年廃止)
- 赤穂鉄道(762mm、1951年廃止)
- 西大寺鉄道(914mm、1962年廃止)
- 下津井電鉄(762mm、1990年廃止)
- 井笠鉄道(762mm、1971年廃止)
- 鞆鉄道(762mm、1954年廃止)
国内の鉱山では610mm軌間の物が多い。坑内では508mmを採用していた所もあるようである。 工事現場で使用された手押しトロッコの軌間には主に610mmと508mmであり、機関車を用いた 工事用軌道は610mmと762mmが多い。
[編集] 日本における狭軌の保存鉄道
- 千葉県成田市にある成田ゆめ牧場において、狭軌鉄道(610mm)の保存が行われている。
- 762mm軌間のものは石川県小松市に尾小屋鉄道の動態保存があるほか、森林鉄道など全国で数カ所の動態保存がある。(詳しくは軽便鉄道の項を参照)