政令指定都市
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
政令指定都市(せいれいしていとし)とは、日本で地方自治法第12章(大都市等に関する特例)第1節(大都市に関する特例)第252条の19第1項の規定に基き、政令(地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市の指定に関する政令)で指定される市である。同法においては「指定都市」というが、政令によって指定されることから一般に「政令指定都市」または略して「政令市」と呼ばれる。現在17市が政令指定都市である。
目次 |
[編集] 政令市に認められる特例
[編集] 事務
指定都市となると、都道府県とほぼ同一の財政上の権限を得ることで地方交付税や道路整備関連の財源が増え、以下の事務について、都道府県の有する権限が委譲される(地方自治法 第252条の19)。
- 児童福祉に関する事務
- 民生委員に関する事務
- 身体障害者の福祉に関する事務
- 生活保護に関する事務
- 行旅病人及び行旅死亡人の取扱いに関する事務
- 社会福祉事業に関する事務
- 知的障害者の福祉に関する事務
- 母子家庭及び寡婦の福祉に関する事務
- 老人福祉に関する事務
- 母子保健に関する事務
- 食品衛生に関する事務
- 墓地、埋葬等の規則に関する事務
- 興行場、旅館及び公衆浴場の営業の規制に関する事務
- 精神保健及び精神障害者の福祉に関する事務
- 結核の予防に関する事務
- 都市計画に関する事務
- 土地区画整理事業に関する事務
- 屋外広告物に関する事務
この他、都道府県の条例により、さらに権限が移譲される場合もある。
[編集] 組織
指定都市は、地方自治法第252条の20第1項に基づいて、条例でその市域を分けて行政区(区と呼称)を設ける事が出来る。区には事務所が置かれ、事務所の長は、当該指定都市の職員の中から市長が選出する。
行政区は、市の権限に属する事務を分掌させるために設けられるものであり、独立した地方公共団体ではなく、市の組織の一部である。
日常生活に密着したサービスを中心とした多くの行政サービスは区役所の所掌となっている。
なお、東京都の区は特別区という。行政区とは異なり、独立した法人格を持つ「特別地方公共団体」であり、市の一組織に過ぎない行政区とは、その固有の事務処理権限も異なる。
また、平成の大合併で政令市以外の市町村で旧市町村を”区”と呼称している自治体があるが、これは地域自治区という形で、新しく合併した市町村の条例の範囲内で総合支所と呼ばれる旧役場等が自治行政区(厳密にいうと支所という地方事務所に過ぎない)として行政事務を行っているだけで、政令市の行政区とは異なる。
[編集] 地方自治法以外の法律において政令市に関して特別の規定のある主な法律
[編集] 警察
指定都市自体は警察を置くことは出来ないが、指定都市になると、その都市を管轄する警察本部は市警察部を設置する。市警察部の役割は警察本部によって異なるが、主に指定都市と警察本部の連絡や指定都市に所在する警察署の管理に関する業務を行う。
[編集] 要件
[編集] 人口要件
指定都市になるための法定要件は人口50万人以上であるが、運用基準は変遷している。地方自治法では国勢調査(5年毎、10月1日現在)を自治体の人口とするため、人口要件の根拠は直近の国勢調査が用いられ、当然、指定都市移行日の人口ではない。ここでは、国勢調査後に合併・指定都市移行となる自治体も多いことを考慮し、比較のため、断りのない限り指定前年10月1日の国勢調査人口または推計人口(国勢調査基準)を記載する。
人口要件の運用基準として、以下のものが並立して存在するとされる。
尚、人口要件は指定時に必要なものであって、指定後に基準の人口を下回っても指定を解除されないとされる。
指定の基準は時代と共に変化している。
その時代に適用された指定基準、指定都市の指定状況、及び関連する国の政策発表の経緯を年代順に記する。
- 六大都市
- 1922年(大正11年)の「六大都市行政監督ニ関スル法律」によって、内地の人口上位6市を六大都市とした。1920年(大正9年)国勢調査の人口を付記(参照)。
- 1943年(昭和18年)には、東京市が都制のもとに解消されたため、残る5市に「五大都市行政監督特例」を制定し、戦後の1956年(昭和31)年9月1日に指定都市に移行した。指定前年1955年(昭和30年)に実施された国勢調査人口を付記。
- 既に100万人を超えているか、近い将来人口100万人を超える見込みの市
- 1963年(昭和38年)4月1日、北九州市(102.3万人)が指定都市移行。先行の指定都市が100万人を超えていたため、指定都市となるには100万人以上の人口が必要とされた。尚、指定後に北九州市が基準の100万人を割っているが、より人口の少ない政令市があるため問題になっていない(→日本の市の人口順位)。
- 1972年(昭和47年)4月1日、札幌市(105.2万人)、川崎市(98.3万人)、福岡市(88.5万人)が指定都市に移行。
これ以降、既に100万人を超えていない場合の人口要件として、近い将来に先行の指定都市と同格の100万人以上となる見込みの80万人以上の人口が必要といわれるようになった。 - 1980年(昭和55年)4月1日に広島市(88.7万人)、1989年(平成元年)4月1日に仙台市(89.8万人)、1992年(平成4年)4月1日に千葉市(83.5万人)も、この基準で指定都市となった。
- 要件緩和措置発表(第一期)
- 2001年(平成13年)8月、市町村合併を進める国の方針により、近い将来100万人を超えると予測されていない場合でも、2005年(平成17年)3月までに合併した自治体に限って人口要件が70万人に緩和される方針が打ち出された。
- (尚、さいたま市は既に人口規模が100万人に達していたので、要件緩和措置を受けず、従来通りの人口要件による指定となった。)
- 要件緩和措置発表(第二期)
- 要件緩和措置 適用第一期 2005年(平成17年)3月までに70万人を達成した市
- 静岡市が70.2万人で2005年(平成17年)4月1日に指定された。
- 続いて、堺市が83.1万人で2006年(平成18年)4月1日に指定された。
- 更に、新潟市が81.3万人、浜松市が80.7万人で2007年(平成19年)4月1日に指定された。
(尚、静岡市は指定後に70万人を割り込む見込みであったため、更なる合併が求められ、2006年(平成18年)3月31日に蒲原町を編入して71.2万人となった。一方、堺市、新潟市、浜松市の3市は要件緩和措置の下限とされる70万人を、約10万人上回る人口規模で指定されたので、70万規定維持のための更なる合併は無かった。)
[編集] 行政能力要件
都市機能や行財政能力については特に法令で規定されていないが、これまで政令指定都市に指定された都市では主に次のような要件を満たしており、これに遜色ない条件を満たす必要があるとされる。
- 第1次産業就業者比率が10%以下であること
- 都市的形態、機能を備えていること
- 移譲事務処理能力を備えていること
- 行政区の設置、区の事務を処理する体制が整っていること
- 政令指定都市移行に関して、県と市の意見が一致していること
[編集] 手続き要件
政令指定都市移行の手続きは特に法令で規定されていないが、これまで政令指定都市に指定された都市では主に次のような手続きを経た上で、指定がなされている。
- 市議会で政令指定都市に関する意見書を議決
- 知事・県議会に対し、政令指定都市の実現への要望書を提出
- 県議会で政令指定都市に関する意見書を議決
- 総務大臣に対し、政令指定都市の実現への要望書を提出
- 関係省庁との協議
- 政令指定都市移行の閣議決定
- 政令の公布
[編集] 政令市及び行政区の一覧
太字は市役所の所在区を示す。
[編集] 県と市で政令市移行作業を進めている都市
現在人口約70万人(練馬区以上[要出典])で、合併新法の締切の2010年3月末までに、政令市移行を目指している都市。以下の市は、県と市との間で委譲される事務などについての協議に入っている。
- 相模原市(神奈川県) - 合併協議を行っていた津久井郡4町のうち、津久井町、相模湖町を編入(2006年3月)し、さらに一時離脱していた藤野町、城山町との合併も決定し、合併特例の政令市昇格目安である人口70万人を突破する事が確定したことを受けて、2006年6月12日、小川相模原市長が公式の場で政令指定都市を目指すことを表明。さらに2007年1月31日、市議会3月定例会の施政方針演説で、2010年3月末までの移行を目指すと正式表明した。また、2007年2月15日、松沢神奈川県知事が県議会2月定例会の所信表明演説で、相模原市の政令指定都市移行を支援する方針を表明した。2007年3月11日に上述の藤野町、城山町を編入し、人口要件を満たした。相模原市#平成の大合併参照。
- 岡山市(岡山県) - 倉敷市は約47万人の人口を有しているがは合併しない方向であるため、政令市化の人口要件には苦労してきた。詳しくは岡山県南政令指定都市構想を参照のこと。
[編集] 政令市を目指している地域
市町村の合併によって、現在以下の地域が指定都市移行を目指している。しかし、市町村合併協議の難航などにより、実現の見通しが立っていない都市が多い。また、実現可能性の高い中核市移行へ切り替え、将来的な目標として政令指定都市への意向を視野に入れるとしている市も増えている。
- 宇都宮市(栃木県)など - 宇都宮市長は、平成18年第1回定例会(第1日目2月28日市議会)での市政運営の基本方針演説において、「政令指定都市も視野に入れ、河内町との合併協議に向けて具体的に意見交換を行ってまいります。」と述べた。
- 佐倉市など(千葉県) - 周辺市町村との合併で政令指定都市を目指すと発表。周辺の八千代市、印西市、白井市、四街道市、八街市、印旛郡などをすべて取り込めば人口は70万人を超える。成田市、富里市なども含めると90万人を超える。
- 駿東・伊豆地域(静岡県) - 政令市化の研究会参加市町は、沼津市、三島市、御殿場市、裾野市、伊豆の国市、函南町、小山町、長泉町、清水町であるが、合併への意欲について各市町で温度差がある。また、研究会参加市町だけでは現時点で70万人に満たないため、隣接する富士総合庁舎管轄地域、あるいは、伊豆半島の全市町を取り込もうという意見も出ている。詳しくは、静岡県東部 政令指定都市構想を参照のこと。
- 姫路市(兵庫県) - 2006年3月27日に安富町、家島町、夢前町、香寺町との編入合併が行われたが、合併後の人口は53万人で同市は今後も周辺市町村との協議を進めていく方針。加古川市を吸収合併すれば約80万人となるが、加古川市が合併を拒んでおり難航している。
- 熊本市(熊本県) - 現在の市人口が約67万人。平成の大合併の時期には、1999年の熊本国体開催に伴う財政悪化や政令市昇格への取り組みにかなり遅れをとったことで周辺市町村との合併調整がうまくいかず、菊陽町・城南町・現在の合志市・植木町・益城町などとの合併は何れも不発に終わっている。唯一、南隣の富合町との間にだけ合併協議会が立ち上がってるものの、1市1町では要件の70万人には到達しないため、さらなる周辺自治体との合併協議が必須となっている。
その他、鹿児島市(鹿児島県) や長野市(長野県)、唯一政令指定都市を持たない四国にも一部で政令市移行を望む声がある。
[編集] ドメイン名
政令指定都市になると、市のドメイン名として "city.市名.都道府県名.jp" の代わりに "city.市名.jp" を使えるようになる(.jp#地域型JPドメイン名を参照)。 ただし、政令指定都市でなくとも、"city.市名.lg.jp" の使用は可能で、従来型との併用も可能である。
なお、堺市は政令指定都市移行後もcity.sakai.osaka.jpのままであり、city.sakai.jpとはなっていない(2006年8月現在)。これは「sakai.jp」が他者に取得されていたためである。また浜松市も同様に「hamamatsu.jp」が他者によって取得されているため、政令指定都市移行後もcity.hamamatsu.shizuoka.jpを使い続けている。 汎用JPドメイン名は通常考えつくようなものはほとんど取得済みであるため、今後、県名と異なる名前の都市(非県都など)の政令指定都市移行が増えるにつれて、同様の事例が増えることが予想される。
[編集] その他
- 統一地方選挙において行われる政令指定都市の市長・議会選挙は都道府県知事・議会選挙と同じいわゆる前日程で実施される。このことからも政令指定都市の重要性(=都道府県とほぼ同格の待遇)を窺い知れる。
- 政令指定都市に指定されると県を通さずに直接国と接触できるようになる。
- 政令指定都市は権限の移譲等県の影響力が少なくなることから実質的に県と同格に扱われ、県の中に県ができると見られることもある。(例:宮城県における仙台市)
- 以上のことから政令指定都市は実質的に県の一部と市を兼ねた自治体ともいえるだろう。都道府県に準じた権限を手にする事で、自由に様々な事に取り組めるようになるのだが、その分、何かあった場合の責任は重くなると言われている。
- 慣例として、政令指定都市の住所を表記する際は都道府県名を省略することが多い。(例:愛知県名古屋市中区栄 → 名古屋市中区栄)
- 現在の法律では、政令指定都市への移行は市に限られるため、東京特別区の1つである東京都世田谷区は、人口が80万人を超えているものの政令指定都市となることができない(→日本の市の人口順位)。
- JRの運賃制度の1つ「特定都区市内制度」では、札幌、仙台、東京23区、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、北九州、福岡の各都区市内にある駅(ここでいう都区市内とは、実際の都区市の範囲と違う場合もあり、川崎市は川崎区全域と幸区の一部の駅を横浜市内と扱っている)と、当該都区市内の中心駅から201km以上離れた駅までの乗車券を求めるとき、乗車券には駅名ではなく「[阪] 大阪市内」などと書かれる。この制度は大都市制度の1つではあるが、現行の政令市制度との整合性はなく、政令市になったからといって適用される類いのものではない(なお、JR各社によれば、新たな市域(千葉市内・さいたま市内・新潟市内・静岡市内・浜松市内・堺市内)を設定すると運賃値上げの区間が生じるとの事で今後新たな市域は設定しないとの事)。
しかし、「特定都区市内制度」の適用条件とされる在来線201km以上の乗車時は、新幹線を利用する場合が大半であり、その場合は市内の各駅からその市内の新幹線停車駅(=市内の中心駅)まで乗車する事になるため、「特定都区市内制度」により市内区間運賃が無料扱いとなり、多くの場合において運賃はむしろ易くなる。この事から見て、「特定都区市内制度」の適用により運賃が値上げになる場合が多いのは、市内に新幹線停車駅が存在しない(千葉市・堺市)となる。
従って、JR各社が新規政令指定都市において「特定都区市内制度」を設定しない本当の理由は市内区間運賃無料化による運賃収入の減収を嫌うためによるものと考えられる。
現状として「特定都区市内制度」を良く知り、関心を持つ利用客が少ないため、これらの新規の指定都市において「特定都区市内制度」の設定を希望する声は皆無である。
だが、比較的多くの利用客が高額長距離乗車券を利用する政令指定都市市内駅エリアにおいて「特定都区市内制度」を設定し、利用客の便宜をはかる事は政令指定都市を発着地として長距離高額JR乗車券を利用する大勢の利用客への有用なサービスになると思われる。
尚、かつて東海道新幹線の回数券には「千葉市内」発着の回数券が設定・発売されていた。
更に、かつて「周遊券」「ミニ周遊券」「ワイド周遊券」「ニューワイド周遊券」等には(函館市内・新潟市内・千葉市内・高松市内)発着の券が発売されていた。
しかし、平成10年4月1日に周遊きっぷに変更され、この時これら4市内駅発着券は廃止された。その理由も同様に運賃収入減少に関係していると考えられる。
- スポーツ大会の場合でも一部で特別扱いされており、全国障害者スポーツ大会と全国健康福祉祭(ねんりんピック)では各都道府県の他に政令市独自でチームを組むことが可能となっている。
[編集] 事業所税が課される市
尚、「政令指定都市」とは一般的には上記の通りであるが、地方自治法の条文に見える「政令で指定する市」の意味するところが、必ずしも政令指定都市 とは同義でない場合もあるので留意が必要である。例えば、事業所税が課される市は上記指定都市17市のほかにもあり、この場合の「政令で指定する市」とは地方税法第701条の31第1項ハで規定されるものを指し、政令(地方税法施行令第56条の15)で以下の市が指定されている。
旭川市、秋田市、郡山市、いわき市、宇都宮市、川越市、所沢市、越谷市、市川市、船橋市、松戸市、柏市、八王子市、町田市、横須賀市、藤沢市、相模原市、富山市、金沢市、長野市、岐阜市、豊橋市、岡崎市、豊田市、大津市、豊中市、吹田市、高槻市、枚方市、姫路市、奈良市、和歌山市、岡山市、倉敷市、福山市、高松市、松山市、高知市、長崎市、熊本市、大分市、宮崎市、鹿児島市、那覇市。
[編集] 脚注
[編集] 関連項目
- 特別区(東京都23区。政令指定都市の区とは異なり、独立した地方自治体で市町村とほぼ同じ権限あり)
- 中核市(政令指定都市に準じている市)
- 特例市(中核市に準じている市)
- 特別市(政令指定都市の元となったとされる制度だが、未施行のまま規定が廃止された)
- 政令指定都市市長一覧
- 総務省
- 日本の市の人口順位
- 日本の首都
[編集] 外部リンク
- 指定都市市長会ホームページ
- 地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市の指定に関する政令(昭和31年7月31日政令第254号、総務省行政管理局法令データ提供システム)
- 指定都市制度の沿革